第07話「地方都市クーチェ(兄妹の絆)」
クーチェ草原の南、石造りの城壁に囲まれた都市――地方都市クーチェ。
その中心には古びた城がそびえ、城下町には市場や住居がひしめき合っている。
玲は、カルジ山地で出会った農夫からもらった『さつまいも』を、
落ち葉と枯れ木で焼いていた。
香ばしい匂いが風に乗って広がると、
どこからともなく子どもたちが集まってくる。
年の頃なら五つから十二ほどの子どもたち。
頬はこけ、服は薄汚れ、靴も履いていない子もいる。
玲は、すぐに状況を察した。
焼き芋を数本追加し、人数分には足りないが、
ひと口ずつでも平等に分け合うことにした。
その中に、ひと組の兄妹がいた。
兄は、やせ細った体で、妹に焼き芋を差し出す。
「お兄ちゃんはさっきお仕事場で食べてきたから、
もうお腹いっぱいなんだ。だから、これも食べな。」
妹は嬉しそうに笑い、「おいしい。」と言って兄に微笑む。
玲はそのやりとりを見て、兄に尋ねた。
「自分の分は、いいの?」
兄は、まっすぐに答える。
「俺は兄だから当たり前だよ。弱い立場の人を守るのが、
強い立場にいる人の役目でしょ?」
玲は、その言葉に胸を打たれた。
兄は語った。
この子どもたちは、戦乱で親を失った孤児たち。
避難用の地下道で寝起きし、兄は靴磨きや皿洗いで稼いだわずかな金で、
妹の面倒を見ているという。
それから数日後。
玲は、胸元の鈴がかすかに震えるのを感じとる。
――悲しい音。
玲はその音に導かれ、地下道へと向かう。
そこには、兄妹が寄り添って眠っていた。
だが、様子がおかしい。
兄はぐったりと横たわり、妹の額には熱がこもっている。
近くにいた子どもが、悲しそうにつぶやいた。
「さっき、役人が来て……食べ物、全部持っていったんだ…」
玲の目が細められる。
「文句を言えば殴られる。だから、兄ちゃん、何も言えなかった…」
地下道には、食料を失った子どもたちが、力なく横たわる。
玲は、その光景を目に焼きつけた。
忘れないように。
そして、この世界の痛みを、見失わないために。
兄は、玲のそばでかすかに目を開ける。
「……妹を、頼みます……俺、もう……」
玲は、そっと兄の手を握った。
「今まで、妹さんの面倒を兄らしく見てあげて、立派でした。ご苦労様。」
兄は、妹の方へ顔を向け、微笑む。
そして、静かに息を引き取った。
玲は、妹をそっと抱きしめる。
「お兄さんは、あなたのそばに、いつでもいるよ。」
その言葉に、妹は声をあげて泣いた。
玲は、すぐに役所へ向かう。
事実関係を確認して、役人たちがいる部屋に入ると、
役人とは思えぬほどの悪相の男が、部屋の奥から現れる。
「なんだお前は。食料? あんなやつらが持ってても、
意味ねぇから回収しただけだ。文句あるか?」
玲は、静かに鈴に触れた。
「……兄妹の痛みを知れ。」
「第1層、展開!」
音が、消えた。
男の口は動いていたが、声は出ない。
怒鳴り声も、足音も、すべてが吸い込まれた。
玲は、男の目をまっすぐに見つめる。
その瞳には、兄の最期の微笑みが映っていた。
やがて音が戻ると、男は膝をつき、何も言えずにうつむく。
玲は、私設の児童施設に妹を預けた。
そこには、子どもたちのために尽力する人々がいた。
妹は、まだ兄の名を呼びながら泣いていて、
玲の手を握りしめて離さなかった。
すると、玲は、そっとその手を包み込んだ。
「大丈夫。あなたの声は、私がつないでいく。」
そして、玲は再び歩き出す。
次に目指すべき場所。
鬼が棲むという、オルヤ平原へ――。
風が唸り、鈴が揺れる。
「……また、誰かが泣いてる。」
玲の旅は、痛みと祈りを抱えて、なお続く。
声なき声を聴き、世界に静けさをもたらすために――。
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