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少女の鈴は、きっと世界を救うだろう!  作者: 紫蘭
第1章「旅の始まり」

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第05話「カルジ山地(通行許可証)」

 カルジ山は、空と雲の境をなぞるように連なる峻険な山脈。

 その麓にある関所では、帝都への通行を望む者たちが列をなしていた。


 玲もその列のひとりだったが、「ここに私の出番はない…。」

 そう思っていた。通行許可証の制度は、

 敵対勢力や異民族の流入を防ぐためのもの。

 理屈はわかる。だが、そこに“声”の余地はない。


 その時だった。

 列の前方で、

 ひとりの女性が係官に詰め寄られている。


「金額は足りてるはずでしょ!」

 と女性の怒りは、爆発する。


 それに対し、係官はこう言い放った。

「この汚れた紙幣じゃ、受け取れねえんだよ!」


 玲の耳に、そのやりとりが自然と届く。

 女性は身なりこそ粗末だったが、

 手には、通行料を払えるだけの紙幣を握っている。

 だが、係官はそれを突き返し、鼻で笑う。


「……息子が、帝都にいるんです。兵役で。

 毎月手紙が来てたのに、三か月前から……。」


 女性の声は震えていた。

 玲はその言葉に、静かに歩み寄る。


「私、帝都に行きます。息子さんのこと、何かわかったら知らせます。」


 その瞬間、許可証を発行していた男が、にやりと笑った。


「……ああ、あの若造か。ここに配属されたが、

 すぐに消えたな。殺し屋にでも攫われたんじゃねえの?」


 玲はその言葉に、胸の奥が冷たくなるのを感じた。

 その男の声には、悪意と無関心が混ざる。

 玲は静かに鈴に触れた。


「……0層、展開。」


 音が、消えた。

 男の口は動いていたが、声は出ない。

 風も、鳥のさえずりも、遠くの鐘の音も、すべてが吸い込まれる。


 玲は男を見つめたまま、何も言わずにその場を後にした。

 “反省する時間を与えただけ”――それが、玲の選んだやり方。


 殺し屋集団――そう呼ばれていた者たちの情報は、すぐに手に入った。

 だが実態は、かつて山賊だった者たちの残党。

 玲は警戒を解かずに、彼らのアジトへと向かう。


 そこで彼女が見たのは、粗野ながらも礼儀をわきまえた者たち。

 そして、彼らの中にいたのは――あの女性の息子だった。


「……あなたが、あの女性の……。」

 玲の言葉に、青年は目を見開く。


 彼は語った。

 帝都での勤務中、通行許可証を扱う役人に目をつけられ、

 嫌がらせを受ける日々が続いていたある日。

 命の危険を感じ、逃げ出して、たどり着いた先が、

 この山賊の見張り台だったこと。


「ここで、ようやく人間らしく扱ってもらえたんです。」

 青年の声は、静かだった。


 玲はうなずき、風のように踵を返す。

 彼女の次の目的は、役人たちの“音”を記録すること。


 数日間の観察で、嫌がらせの実態は明らかになる。

 それは想像以上に陰湿で、暴力的だった。


 夜。

 役人たちが眠りについたそのとき、玲は動いた。


「……第1層、展開!」


 音が、消える。

 目を覚ました役人たちは、音のない世界に混乱し、

 玲に襲いかかってきた。

 だが、玲の歩みは止まらない。


 所長室の前で、玲は短く言った。

「女性と息子に詫びろ。」


 そして、所長の音も奪う。

 その夜、玲は静かにその場を後にした。


 ――後日。


 通行許可証の制度は見直され、民間の有志によって運営されることになる。

 利用者からの評判は上々で、「まるで別の世界」と言われるほどだった。


 あの女性の息子は、母(女性)のもとに戻る。


「今度こそ、ちゃんと孝行します。母さんのそばで…」


 彼はそう言って、母と暮らすことを選んだ。


 玲は以前に聞いていた女性の連絡先に、一言だけ短く伝えた。


「息子さんの件、よかったですね。」


 その言葉に、女性はこみ上げる涙をぬぐいながら、何度も深く頭を下げた。

 姿は見えなくても、心の奥から「ありがとう」があふれて止まらなかった。


 玲はカルジ山地を越え、クーチェ草原を目指す。

 そこは、犬の町――

 新たな“声”が、玲を待っている。


 風が鳴る。

 鈴が揺れる。


「……また、誰かが泣いてる。」


 静かに、確かに。

 玲の旅は、まだ終わらない――。

最後までお読みいただき、誠にありがとうございます。

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