その村で起こったこと
郊外にある、その村のこじんまりとした古屋に少年と少女が住んでいました。歳の頃は十五歳から十八歳程度と思われます。
不思議なことに、村には少年と少女しか住んでいません。村は木々に覆われ、時折鳥の鳴く音が聞こえるだけで、静謐が漂っていました。
その村に一人の男がやってきました。茶色のジャケットと紺のジーンズを履いた男の帯には、ホルスターが留まっていました。ホルスターの中身は、大口径のリボルバーです。これが、彼の相棒です。
彼は、村の異変に直ぐに気がつきました。彼にとっては嗅ぎ慣れた匂いが村中に充満していたのです。それは、饐えた匂いでした。腐敗した死体から発せられる匂いです。村に咲き乱れる花々や、緑をたたえる木々の香りとはまるで違います。
慣れたと言っても、この匂いは気持ちのいいものではありません。彼は鼻を手で抑えながら、匂いの元凶へ向かい歩を進めました。その道には血の跡が続いています。元は生きていたであろう者の肉片も確認できました。元凶へ向かうに連れて匂いは段々と濃くなっていきます。
大きな木の側に、両足を切断された女が息も絶え絶えに倒れていました。男は、女に近寄り話しかけます。
「誰にやられた?」
男の声は平板で感情がないように思えます。
女は顎を引き裂かれており、喋ることができません。女が指で示す方向には、こじんまりとした木造の古屋が建っていまいました。
女の手から力が抜け、だらんと地に着きました。それは、女が死んだことを物語っていました。
男はホルスターからリボルバーを取り出し、両手で構えながら、慎重な足取りで古屋へ近付いていきます。その時でした。女がいた木の上から、粗末な斧を持った少年が、男目掛けて飛び降りてきました。男は咄嗟に身を翻し、斧は空を切りました。男はすぐさま少年に向けリボルバーを構えます。指は既に引金に掛かっていて、いつでも撃てる状態です。
男は少年を見ました。少年の目は紅に染まっており、眼球が異様な程、盛り上がっていました。
「やはり、お前もか」
男は、そう呟き、撃鉄を落としました。それは、呆気ない散り際でした。男の放った弾丸は、少年の頭に直撃し、血飛沫と脳漿をそこら中に撒き散らし、少年の身体は糸の切れた人形のように、その場に倒れました。
男は命の灯火が失われた少年に目もくれず、古屋へ向かいます。
古屋の扉が開かれました。酷い有様が広がっていました。切り取られた人体の一部や臓物が、そこら辺に転がり、蝿が集り蛆が這っていました。その光景を見ても、男は平然としています。そして、ゆっくりと、リボルバーが少女に向けられます。
どうやら、少女は食事の途中だったようで、こんがり焼かれた人間の足に齧り付いていました。それは、もう人間とは呼べません。人間に扮した獣です。男は何の躊躇をせず、引金を引きました。少年より小さい少女の頭は粉微塵に吹き飛び、男の仕事は終わりました。
男はジーンズから携帯電話を取り出し、とある番号に電話をかけます。電話は直ぐに繋がり、男は簡潔に述べました。
「状況終了。やはり、街で頻発している人喰いと類似している。後処理は任せた。私は帰る」
男は電話を切り、相棒のリボルバーをホルスターに仕舞い、古屋を出ます。
━━防護服に身を包んだ男だが女だがも判然としない人間達が村に足を踏み入れました。彼等は『焼却隊』と呼ばれる、掃除屋です。彼等の手には火炎放射器が握られています。
「現時刻より、少年と少女の死体を回収した後、村を焼き払う」
一人がそう言うと、全員が動き出し、一人は少年の死体を透明なケースに収容し、一人は少女を同様に透明なケースに収容しました。
「感染者の収容完了。焼却を開始してください」
一人が言うと、火炎放射器から炎が放たれました。そうして、一つの村が地図から消えました。
男は、一枚の古ぼけた写真を持っていました。写真には、先程、男が殺した少年と少女、そしてその両親が仲睦ましく写っていました。男は煙草を吸いながら、無感情に写真を眺めています。男が今までに殺してきた人間や『人喰い』の数は数え切れません。その度に男は、何らかの遺品を持って帰るのです。
「高く売れそうだ」男はそう呟き、灰になっていく村を眺めていました。
おしまい。




