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第1話 辺境へ、毒舌令嬢の追放

「セレスティア・フォン・ルクレール。あなたを、この国から追放する――」


公爵家の広間で響いた、冷たい第一王子の宣告。周囲の貴族たちの視線は、まるで自分を嘲笑うかのように鋭く突き刺さる。

私はゆっくりと立ち上がり、王子を見据えた。口元に微笑を浮かべながらも、瞳の奥には氷のような怒りが宿っている。


「……なるほど。第一王子様、あなたは私を辺境の地に放り出すつもりなのですね」

「無実の罪を着せられても、私は泣き寝入りなど致しませんわ」


隣には、あの聖女の顔がある。微笑みを浮かべたその姿は、まるで清らかな天使そのもの――だが、私の目にはただの偽物としか映らない。

この国で一番信用できない人物の一人。いや、二人か。


「あなたの罪は確定しています、セレスティア。取り巻きたちの証言も揃っていますし、国民の間にも疑念はありません」


王子は威圧するように胸を張る。しかし、私は笑った。

「疑念? あら、面白い。では、あなた方は私が前世で天才的な薬師だったことをご存じないのでしょうね」


内心、これで少しでもびびればいいと思った。もちろん、彼らにその価値はわかるまい。

私は婚約破棄と追放を宣告されても、心の中で密かにほくそ笑んでいた。そう――この荒れ果てた辺境の地こそ、私の本領を発揮する舞台になるのだ。


馬車は揺れ、砂埃が舞う荒野を進む。王城を離れ、辺境の地へ向かう道中、私は窓の外の景色を眺めていた。


「こんなところに、私を放り込むつもりですか?」


同行の従者が小声でつぶやく。私は肩をすくめる。

「まあ、国の中心から遠く離れたこの地で、のんびりと薬草園でも作るには、悪くない場所ですわ」


土地は確かに荒れていた。草木は生えているが、どれも栄養不足でひょろひょろとしている。水場も乏しく、空気は乾いている。しかし――私には見える。


「この土地、薬草の力で生まれ変わらせてみせますわ」


そう呟くと、不思議と胸の奥に希望が湧いた。ここでなら、誰にも邪魔されず、私の知識と技術を存分に活かせる。


到着早々、私は手を真っ黒にしながら畑を耕した。土を混ぜ、水を引き、薬草の種を植えていく。

「これで、まずは基礎となる薬草を育てましょう」


日が暮れる頃には、辺境の小さな薬草園が形になっていた。従者が感嘆の声をあげる。

「令嬢……本当に、ここまで……」

「ええ、当然ですわ。私はただの令嬢ではありませんもの」


夜、寝床で星空を眺めながら、私は決意を新たにする。

「第一王子も聖女も、私を舐めていましたわね。ならば、結果で黙らせて差し上げますわ」


それから数か月。薬草園は少しずつ形を整え、辺境の村人たちも私の作る薬に頼るようになった。

ある日、私の元を訪れたのは、隣国の第三王子――アルフレッド。病弱で知られる彼が、病を癒すために私の薬を求めて来たのだ。


「……貴方が、セレスティア・フォン・ルクレール殿ですか?」

アルフレッド王子は弱々しい声で言う。しかし、その瞳には真剣さと希望が光っていた。


私は微笑みながら薬箱を開く。

「はい。さあ、これであなたの病も落ち着きますわ」


初めての成功は、私の心に小さな喜びを灯した。

そして、私は気づく――この地での生活こそ、自分が本当に求めていた自由と幸福なのだと。


辺境での生活は、まだ始まったばかり。

だが、私は知っている。追放された者にしか得られない力と出会いが、これからの私を支えるだろうと。


「さあ、アルフレッド王子……あなたと一緒に、穏やかな日々を楽しませていただきますわ」


毒舌令嬢の新しい物語は、こうして幕を開けた――。

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