第八章 そして悪役令嬢は旅立つ
塔が経ってから数年後。
魔力制御塔は世界中に広がり、魔導文明の黄金時代が始まった。
私はドシュタァリン家を離れ、魔導学院の教授となり若者たちに知識を伝えている。
ルーネゼとアルテミウスは結婚し、平和な国を築いていた。
教会も改革され、魔導と信仰の共存が実現する。
ある日、王妃になったルーネゼが私のもとを訪ねてきた。
「カルメン様、王宮から招聘状が。名誉勲章を授与したいと思っています」
「いらないわ」
「え……でも」
「私は表彰されるような善人じゃないもの」
私は悪役令嬢──カルメン・ルミエル・ドシュタァリンだから。
「……カルメン様はみんなの英雄です」
「そう? ありがとう。でも勲章はいらないわ。じつは、堅苦しいのは苦手なの」
でも英雄じゃなくていい。
ただ自分を信じて進めた。
それだけで充分。
私は窓の外を見る。
空には魔導飛行船が舞い、子どもたちが笑い声を上げている。
「……ねえ、ルーネゼさん」
「はい?」
「悪役って意外と楽しいわよ。だって誰も期待しないから、何をしても自由だし。世界を敵に回しても、自分の信じる道を進めばいいのだから」
ルーネゼはふわりと微笑んだ。
「……私も、カルメン様みたいになりたいです」
「じゃあ、悪役になってみたら? 世界を敵に回すのも、悪くないわよ」