第三章 王太子に告げる「私はあなたを愛しません」
舞踏会の夜。
煌びやかなドレスに身を包み、私は王宮の舞踏室へと足を踏み入れた。
音楽が流れ、貴族たちが舞う中、王太子アルテミウスが私のもとへやってくる。
「カルメン、待っていたよ」
「まあ、そう? でもちょうど良かった。アルテミウス殿下にお伝えした事が」
「なんだ?」
私は微笑みながら、静かに言った。
「私はあなたを愛しません」
その場が凍り付く。
「……何を言うんだ? 君は幼なじみだろう? 俺たちの婚約も……」
「破棄いたします」
私は堂々と宣言した。
「ドシュタァリン家は栄誉ある家ですが、私は王妃になる気などありません。ましてやあなたの心を奪うような真似もしない。私は自分のために生きます」
周囲の貴族たちがざわつく。
アルテミウスは信じられないという顔で私を見つめた。
「……なぜだ?」
「なぜって……だって殿下は、ルーネゼさんがお好きなんでしょう?」
私は肩をすくめて見せる。
「気づいてないふりをしていましたけれど、殿下はルーネゼさんのことを目で追っていたではありませんか。なら私は、邪魔にならないようにさっさと退場するだけですわ」
そして私は、改めて高らかに宣言した。
「私──カルメン・ルミエル・ドシュタァリンは、王太子との婚約を破棄いたします!」
場が騒然としたが、私は内心で笑う。
悪役令嬢が悪役をやめたらどうなるか──きっと世界がちょっとだけ狂い始めるわ。