第二章 悪役令嬢の第一歩はヒロインに挨拶から
王都の名門、ドシュタァリン家。
その令嬢であるカルメンは、翌週開かれる王宮の春の舞踏会に出席するための準備を進めていた。
ゲームではカルメンは舞踏会で王太子に迫ったが、私はそんな真似はしない。
「平民の娘が舞踏会に招待された? 珍しいわね」
「はい、カルメン様。学園の成績優秀者に与えられる特権です」
「ふーん。じゃあ、会いに行ってみようかしら」
私はむしろ、ヒロインのルーネゼに会いに行くことにした。
馬車を走らせ、ルーネゼが通う王立学院へと向う。
放課後の庭へ赴くと、目当ての彼女を見つけた。
「あら、あなたがルーネゼさん?」
「は、はい……あの、あなたは?」
「私はカルメン・ルミエル・ドシュタァリンよ」
「カルメン様……」
彼女は緊張した面持ちで、ぎこちなくカーテシーをして頭を下げる。
前世のゲームでの記憶では、この子がカルメンの悪行のすべてを許して優しく微笑むヒロインだ。
でも、私は悪行なんて起こさない。
「こんにちは、ルーネゼさん」
私は微笑み、ルーネゼに手を差し出した。
「これからよろしくね」
「え……?」
「出来たら私と仲良くしてほしいの? お嫌かしら?」
「いいえ、そんな事は……! ええと……宜しくお願いします」
彼女は私の手を取り、握手を交わす。
「それじゃ、舞踏会で」
私はくるりと背を向け、学園の庭を去った。
背後でルーネゼが小さくつぶやく声が聞こえる。
「……カルメン様、意外と……優しい?」
優しくなんかないわよ。
私は心の中で笑った。
ただ、戦い方を知っているだけ。