第97話 え!?
――気がつくと、ミナは真っ白な空間に立っていた。
何もない。天も地も区別がつかない。
「……え、なにこれ? 白すぎない?」
ミナは腕を組みながらきょろきょろと辺りを見回す。
その顔には焦りというより、ちょっとした退屈さが浮かんでいた。
ふと、思い出す。
自分の過去。
マンガをむさぼるように読んでいた日々。
本当は冒険に出たい。でも失敗したらどうしよう。母みたいに立派になれるのかな――。
母は偉大なギルドのサブマスターで、世界一の拘束士。
自分だって幼少期から光の鎖を発現させ、「天才」と呼ばれた。
……でも、年を重ねるにつれ、失敗も増えた。
そんなときは、大好きなマンガを読みふけることで誤魔化していた。
周りには「ただのマンガ好き」と思わせて、影では必死に練習を続けていた。
「ソウタお兄ちゃん……」
小さくつぶやいて、ミナは笑う。
子どものころ、お嫁さんにしてくださいって言ったのを覚えてるなんて。
しかも彼は、なぜか自分の努力をちゃんと見抜いていた。
――気になる存在。
でも、ヒカルも気になる。旅に出るきっかけをくれたのは彼だから。
「……恋する乙女は忙しいんだよね~」
ミナはひとりで赤面し、あたふたし、両手で顔を覆った。
しかし、ふと冷静になる。
「……あれ?」
よく読んでいた漫画では、こういう時って「影の自分」とか「偽物の誰か」が出てきて、戦ったり泣いたりして、成長を実感するパターンじゃないの?
「ほら、ここで『アタシはもう逃げない!』とか言って決め技ドーンで、感動のラスト……」
辺りを見回す。
……誰もいない。
敵も、偽物も、仲間の幻影すら出てこない。
「えっ、ちょ、ちょっと待ってよ!? アタシの見せ場は!? 感動の試練イベントは!?!?」
ミナはくるくる回りながら声を張り上げる。
しかし、静寂だけが返ってくる。
そして、ようやく気づいた。
「……あ。そうか。アタシ、いま何も迷ってないんだ」
ぽかんとしたあと、ミナはにっこり笑った。
次の瞬間、視界がまばゆい光に包まれ――元の第8層へと戻ってきた。
仲間たちの姿が見える。
ミナは心の中で思った。
(ちょっとくらい感動的な展開があっても良かったんだけどなぁ……)
そう、ほんのり拗ねながら。
でも、口元には満足そうな笑みが浮かんでいた。
――ミナの試練は、ちょっとしたコメディで幕を閉じたのだった。




