第96話 ユウキの師匠
――気づくと、ユウキは暖炉の前に立っていた。
懐かしい香り。木造の小さな家。そこは、育ての親である老紳士シドと過ごした家だった。
「……シド?」
暖炉のそば、椅子に腰掛けたのは、長い髭を撫でながら本を読んでいる老人。
ユウキのよく知る姿だった。
「ユウキ……お前は、もう無理をする必要はない」
「究極の魔法なんてものは存在しない。あれは夢物語だ」
老紳士は静かに言う。
「魔法を極めても意味はない。わしの体ももう限界だ。……お前も、このパーティの犠牲になる必要はないのだ」
「戦いなど、諦めてしまえ」
ユウキの胸が、ずきりと痛む。
――けれど。
彼は強く首を振った。
「そんなこと、シドが言うわけない!」
「シドはいつだって夢を語ってた!」
「希望を信じて、どんな時も探求心を忘れなかった!」
脳裏に、シドと過ごした日々が鮮やかに蘇る。
新しい魔法の理論を考えては目を輝かせる師。
何度失敗しても笑って立ち上がる姿。
――その背中に憧れて、ユウキは魔法の道を歩んできた。
「僕は、あの日のことを忘れてない……」
声が震える。
シドが亡くなった日のこと。
悲しくて、苦しくて、最後まで見送ることすらできなかった。
でも――誓ったのだ。
『ユウキ。究極の魔法を、見つけるのだ』
その声は、確かにユウキに託されていた。
「だから僕は、諦めない!」
「シドは僕に夢を託してくれたんだ! お前は……偽物だ!」
ユウキが両手を掲げる。
魔法陣が空間に浮かび、淡い光に包まれる。
「――《トリックアウト・偽物霧散》!」
光の奔流が偽りの姿を飲み込み、老人の姿は霧のように消えていった。
残された静けさの中、ユウキはぎゅっと拳を握った。
胸の奥が温かくなる。
「……でも、たとえ偽物でも、シドの姿を見れてよかった」
頬を伝う涙が、ぽたりと落ちる。
それでも、その瞳は強く輝いていた。
夢と希望、そして無限の探求心――。
まるでかつての師そのもののように。
ユウキは涙を拭い、真っすぐ前を見据えた。
まだ12歳の小さな魔法使いの目は、誰よりも大きな未来を映していた。
いつも読んでくださり、ありがとうございます。
良ければブックマークと評価をお願いします。励みになります。




