第95話 ナオの成長
――気がつくと、ナオは荒れ果てた石畳の上に立っていた。
重苦しい空気に満ちたその場所は、どこか過去の記憶に似ている。
目の前に現れたのは、影のナオ。
口元には嘲笑を浮かべ、鋭い眼差しで彼女を見下ろしていた。
「また一人ぼっちだな、ナオ」
「覚えてるだろ? あのときも、どこのギルドからも声がかからなかった」
「両親のことと比べられて、周りからは期待外れって言われてさ」
影の言葉が、胸に突き刺さる。
ナオの脳裏に、過去の記憶が蘇る。
幼い頃から、両親は優秀な冒険者として知られていた。
常に「英雄の娘」と呼ばれ、誰もが期待を寄せた。
――だが、ナオの剣は、両親のように輝かなかった。
不器用で、上手くいかない。気がつけば、仲間たちの輪から外れていた。
「ナオは、両親には遠く及ばないな」
そんな陰口を耳にするたび、心は冷えていった。
ギルドに入りたくても、誰も誘ってくれなかった。
長い間、一人で剣を振り続けるしかなかったのだ。
影のナオが嘲るように言葉を重ねる。
「どうせ、また捨てられるさ」
「お前なんか、誰にも必要とされてない」
「守る? 笑わせるなよ。どうせまた、自分だけが取り残される」
影が刀を抜き、襲いかかってくる。
ナオは必死に受け止めるが、押し込まれていく。
そのとき、心の奥から浮かんできたのは――今の仲間たちの姿だった。
ヒカルの真剣な背中。
ソウタの仲間を信じる力。
ミナの明るさと強さ。
レナの優しさと決意。
ユウキの無邪気な笑顔。
そして、自分の名前を呼んでくれる声。
「ナオ!」
「一緒に行こう!」
――そうだ。もう、あの頃の自分じゃない。
ナオは剣を握り直し、影を睨みつけた。
「私は、もう比べられて生きてるんじゃない」
「誰かの娘だからとか、誰かと比べてどうとか……そんなのどうでもいい」
「私は、仲間を守りたいから剣を振るうんだ!」
「何かをもらうんじゃなくて、私が与える。私が支える。それが、今の私!」
力強く叫ぶと、ナオの剣が眩い光に包まれる。
影のナオが一瞬たじろいだ。
「与える……? そんなもの、ただの綺麗事だ!」
怒号とともに繰り出された斬撃を、ナオは正面から受け止めた。
そして、光を帯びた剣を振り抜く。
「――《悪魔の覇道・真》!」
衝撃波と共に、影は霧散し、虚空に消えていった。
残された静寂の中、ナオは剣を収め、深く息を吐く。
「私はもう、一人じゃない。仲間を守れる自分でいる」
「それが、私の強さだ」
そう呟いたとき、眩い光が彼女を包み込み、第8層での試練を乗り越えたことを告げていた。
いつも読んでくださり、ありがとうございます。
良ければブックマークと評価をお願いします。励みになります。




