第94話 レナの過去
――気がつくと、レナは白い虚空に立っていた。
辺りには光しかなく、床も壁も天井も存在しない。
「ここは……?」
呟いたその声に応えるように、目の前にもう一人のレナが姿を現した。
冷たい瞳をした、影のレナ。
「あなた、本当に僧侶なの?」
「仲間を守るはずの存在が……救えなかった人を、もう忘れたの?」
――その言葉で、胸が締め付けられた。
映像のように、過去の光景が目の前に浮かび上がる。
それは、レナがまだ別のギルドにいた頃の記憶。
仲間の一人、剣士の青年が瀕死の傷を負い、倒れていた。
――青年は、ヒカルに少し似ていた。
真っ直ぐで、不器用で、それでも皆を守ろうと剣を振るう姿に、レナは少なからず惹かれていたのだ。
「レナ、俺に構うな……先に行け」
「そんなの、できるわけない!」
必死に回復魔法を施した。だが、敵の猛攻は止まらず、治癒が追いつかない。
最期に青年は、かすかに笑みを浮かべ、仲間の盾となって散った。
――救えなかった。
その悔恨が、ずっとレナの胸に残り続けていた。
影のレナが問い詰める。
「あなたは癒せなかった。結局、力不足だった」
「だから攻撃に逃げたんでしょう? “守れないなら、せめて倒せばいい”と」
「……僧侶のくせに」
鋭い光弾がレナを撃ち抜く。
彼女は膝をつき、かつての後悔に心を押し潰されそうになる。
だが、そのとき脳裏に浮かんだのは――今の仲間たちの姿だった。
彼らは皆、生きている。支え合って、共に戦っている。
レナは拳を握りしめ、影に向き直った。
「……私は逃げてなんかない」
「救えなかった人のことは、一生忘れない。でも、その後悔に押し潰されるつもりもない」
「私は戦う。癒すだけじゃなく、敵を討つことで守れる命があるから!」
レナの杖が光を帯びる。
影のレナが「偽りだ」と叫び、再び攻撃を放つ。
レナは一歩も引かず、杖を振り抜いた。
「――《聖雷撃・真》!」
雷光が奔り、影を焼き尽くす。
影のレナは苦悶の表情を浮かべ、やがて光の粒となって消えていった。
静かな光に包まれながら、レナは目を閉じる。
「……救えなかった命はある。だからこそ、私は守れる命を絶対に守る。これからは、もっと強く」
次の瞬間、意識は現実に戻っていった。
第8層での試練を乗り越え、レナはかつての痛みを抱えながらも、自らの在り方を肯定することができたのだった。
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