第93話 ヒカルの試練
階段を下りたルミナスブレイブを包んだのは、静謐な光の結界だった。
広大な空間に一歩踏み入れると、メンバーは一瞬にして離れ離れになる。
「ヒカル!? みんなっ!?」
声を上げても、仲間の姿はどこにもない。
『ここは第8階層──精神世界。勇者を名乗る資格があるか、一人ひとりに試練を与える』
荘厳な声が響いた。
――目を開けた瞬間、ヒカルは息をのんだ。
そこは見覚えのある風景。巨大な魔法スクリーンが設置された広場、興奮と緊張でざわつく人々の声。
「……ここは……?」
脳裏に焼きついていた景色。
ダンジョンキングオーダー ギルドパーティ編、開催当日。
しかし、ヒカルを取り囲んでいたのは、ナオ、ユウキ、ミナ、レナ、ソウタではなく、
昔の仲間だった。そう前世のゲーム時代のだ。
ヒカルは前世で「黎明の翼」というギルドのギルドマスターだった。
チート級の知識を駆使し、個人では圧倒的な強さを誇った覇者。
しかし、それでもギルドパーティ戦で一度も一位を取れなかった。
理由はわかっていた。
――仲間に、自分が活躍できるようなスキル構成を強要していたから。
圧倒的な強さに裏打ちされた作戦だったが、求める要求は常に高すぎた。
知らず知らずのうちに、仲間へ重いプレッシャーをかけていたのだ。
そしてある日。
――「あいつの独りよがりには、もうついていけない」
自分がいないところで交わされていた会話を、偶然耳にしてしまった。
胸が締めつけられる。
現実では人をまとめたこともなく、むしろゲームに逃げ込むように生きてきた自分。
束ねる立場が本当に自分に合っていたのか――答えは出せないまま、仲間に惜しまれつつもギルドを解散した、苦い記憶。
ヒカルは唇を噛む。
次の瞬間、意識が切り替わった。どうやら今世の意識に戻ってきたようだ。
そこは第8層の精神世界。ヒカルがいるべき場所だ。
しかし、目の前に立つのは、自分と瓜二つの存在。
影のヒカルだった。
影は歪んだ笑みを浮かべ、剣を振り下ろしてきた。
「どうせ仲間はお前を信じない。そんなやつらは必要ない」
「一人でいた方が気楽だろ? わずらわしいよな、他人に囲まれるなんて」
「お前は覇者なんだ。好き勝手にやってりゃいい」
刃の衝撃が響き、ヒカルは防戦一方に追い込まれる。
影の言葉が胸を刺し、過去の孤独が再び蘇りそうになる。
――だが、今は違う。
ヒカルの脳裏に浮かぶのは、この世界で出会った仲間たちの笑顔。
仲間の成長は仲間自身に任せ、必要なときに手を差し伸べてきた。
ギルドマスターの座も、適任者であるソウタに譲り、自分は戦略に集中することでチームを導いてきた。
昨日だって、皆で肩を並べ、語り合ったじゃないか。
苦しみも、喜びも分かち合いながら、ここまで進んできた。
――そうだ。今は一人じゃない。
ヒカルの瞳に、再び力強い光が宿った。
「違うな、今の俺は!」
影の剣を弾き返し、ヒカルは踏み込む。
「仲間がいるから、俺は俺でいられる! それに気づいたんだ!」
刹那、聖なる光がヒカルの剣を包み込む。
――《神裁》。
振り下ろされた一撃が影のヒカルを貫いた。
「馬鹿な……そんな仲間……信じて……」
呻き声とともに、影は霧散していった。
静まり返った精神世界に、ヒカルの荒い息だけが響く。
だが、その胸は確かに温かい希望で満たされていた。
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