第88話 夜のレストハウス2
ナオは胸に手を当てて一呼吸してから、ヒカルの部屋をノックする。
「今日は……来客が多いな」
ヒカルが苦笑すると、ナオは少し頬を染めながら中へ入ってきた。
「……あのね、ヒカル。ありがとう。君のおかげで……両親のことばかりじゃなくて、自分がどうしたいかって考えられるようになったの」
ナオは言葉を選ぶように、でも真っ直ぐな目で伝える。
ヒカルはその姿に穏やかに微笑んだ。
「俺の方こそ感謝してる。ルシフェル戦はナオがいなきゃ勝てなかった。それに、いつもギルドを柔らかい雰囲気にしてくれてありがとう」
優しい笑顔を向けられた瞬間、ナオの心臓がどきんと鳴った。
「……っ! そ、それじゃあ、おやすみなさい!」
顔を赤らめたまま、慌てて部屋を飛び出していった。
しばらくして――。
また扉が叩かれた。
「……レナか」
姿を見せた彼女は、どこか落ち着いた笑みを浮かべている。
「私をギルドに迎えてくれてありがとう。追放したのに、また受け入れてくれて……おかげで、心がずっと楽になった」
レナは深々と頭を下げた。
「それはもう済んだことだ。仲間だろ」
ヒカルが軽く笑うと、レナはほっと息をつく。だが次の瞬間、少しだけ真剣な顔つきになる。
「……もし、今回のギルドパーティでオーダー1位を取れたら、聞きたいことがあるの。できるだけ答えてくれる?」
「なんの話か見当つかないけど……分かった」
「じゃあ、明日」
そう言い残して扉を閉めたレナは、廊下に出た瞬間、顔を赤らめて小さく息をついた。
立て続けの訪問に、ヒカルはすっかり目が冴えてしまった。
彼は気分転換にリビングへ向かう。
そこにいたのは、ソウタだった。
「お、ヒカル。いよいよ黒姫との勝負だな。まさか直接対決になるとは思ってなかったけどよ……どんな相手でも、俺がみんなを守る」
腕を組んだソウタの表情は真剣そのものだ。
「……なぁ、オーダー1位を取ったら話したいことがある」
ヒカルが切り出すと、ソウタは口角を上げた。
「まさかミナが好きだーとか言い出すんじゃねぇだろな?」
「ちげーよ!」
「はは、冗談だって。……で、なんだ?」
「今後のギルドの方針について。ギルマスのお前と話したい」
「……分かった。じゃあ明日のために、俺はもう寝る」
そう言ってソウタは退出していった。
ヒカルが自室へ戻ろうとしたその時――。
「……ヒカルさん」
リビングに入ってきたのはユウキだった。小柄な体で少し疲れた様子だが、目は冴えている。
「疲れてるんじゃないのか?」
「はい。でも……今日の戦いを思い出すと、寝つけなくて」
ヒカルは隣に座らせると、静かに言った。
「ありがとな、ユウキ。お前にはずいぶん助けられてる」
「僕の方こそですよ。師匠の夢を追いかけられるのは、ルミナスブレイブにいたからです。子供だからって誰も拾ってくれなかった僕を、ヒカルさんが拾ってくれた。感謝してます」
その言葉にヒカルは胸が熱くなる。
彼はふと、日々を思い返しながらぽつりと尋ねた。
「なぁ……そういえば師匠が言ってた“一瞬ですべてを叶える魔法”って、見つかったのか?」
返事を待ったが、隣からは小さな寝息が聞こえた。ユウキはいつの間にか眠り込んでいたのだ。
ヒカルはそっと抱きかかえ、部屋まで連れていきベッドに寝かせる。
静寂に包まれたレストハウス。
ようやくヒカルも自室へ戻り、深い眠りに落ちた。
翌朝。
魔法の鐘が九時を告げると同時に、ルミナスブレイブの面々は装備を整え、階段の前に立っていた。
黒姫との直接対決――運命の一戦が、今始まろうとしていた。
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