第87話 夜のレストハウス1
ルミナスブレイブは、夕食を終え、それぞれ椅子やベッドに身を預けていた。
明日の対戦相手が黒姫に決まったとあって、部屋の空気はどこか張りつめている。
「……黒姫か」
ヒカルが小さくつぶやく。
「剣神……あいつ、絶対ヤバいって」
ミナがソファに寝転びながらも、珍しく真剣な顔をしていた。
「僕もそう思います。あの人の剣から、普通じゃないものを感じました」
ユウキは食後のカップを両手で包みながら、眉を寄せる。
「それに、咲さんも……」
レナが口を開く。「きっと剣神に操られてる。目の色、完全に正気じゃなかった」
皆が黙り込む中、ソウタが勢いよく立ち上がった。
「でもよ、相手がどんだけ強くても、俺らが勝てばいいんだろ? 今までだって無理そうな壁をぶっ壊してきたじゃねーか!」
その言葉に、重苦しい空気が少しだけ和らぐ。
「……ふふっ、ソウタってほんと単純」
ミナが笑うと、ナオも静かに頷いた。
「でも、今はそのくらいの気持ちが必要だな。相手が誰であろうと、勝つのは私たちだ」
ヒカルは仲間を順に見渡す。
ユウキも、レナも、ソウタも、ナオも、ミナも。
皆、今日の戦いで疲れ切っているはずなのに、瞳の奥にはまだ光が宿っている。
「……よし。明日は正念場だ。俺たちは絶対に負けない。全員で勝つぞ」
ヒカルの言葉に、仲間たちは力強く頷いた。
その夜。
レストハウスの窓から見える魔法の月明かりを浴びながら、ヒカルは一人、剣を膝に置き、静かに目を閉じていた。
心臓の奥で、前世の記憶が警鐘を鳴らしている。
黒姫――特に剣神は、この大会最大の脅威だ。
けれども、彼には仲間がいる。今まで一緒に壁を超えてきた仲間が。
(俺たちなら、きっと勝てる……)
剣を握る手に、自然と力がこもった。
明日は――ルミナスブレイブにとって最大の試練となる。
静まり返ったレストハウス。灯りがやわらかく揺れる部屋で、ヒカルは剣を磨きながら明日に備えていた。
すると、コンコンと控えめなノックが響く。
「……入っていい?」
扉を開けて顔をのぞかせたのはミナだった。
「どうした?」
ヒカルが首を傾げると、ミナは照れくさそうに笑いながら部屋に入ってきた。
「んー……ちょっと、言っときたいことがあってさ。あたしを冒険に連れ出してくれてありがと」
そう言って、ベッドの端に腰を下ろす。
「最初は半信半疑だったけど、ここまで戦ってきて、自分の実力をちゃんと確かめられた。だからさ……ヒカルの夢、ギルドパーティでオーダー1位を取るってやつ、一緒に叶えたいって思ってる。いや、もうあたしの夢でもあるんだ」
真正面から向けられた瞳に、ヒカルは思わず笑みを浮かべた。
「おう! 一緒に叶えよう」
快活な声と笑顔に、ミナは頬をほんのり赤らめる。
「……ま、がんばろ!」
ぶっきらぼうに言いながら立ち上がり、扉を開けて出ていった。
その直後――。
「あ……」
廊下ですれ違ったのはナオだった。ミナと鉢合わせし、互いに一瞬ぎこちない空気になる。
「明日……がんばろうね」
ナオが小さく微笑むと、ミナも同じように返し、足早に立ち去った。
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