第86話 束の間の休息
階段を下りきったルミナスブレイブの一行は、思わず足を止めた。
「……え、ここ、まさか」
レナが目をぱちくりさせる。
そこは戦場ではなく、広々としたホール。魔法で照らされた天井は柔らかな光を放ち、中央には泉が湧き出している。周囲には木造の小さなレストハウスがいくつも建てられ、甘い香りが漂っていた。
「これ……休憩フロアだ」
ヒカルは低くつぶやいた。
魔王城という死地のはずなのに、そこだけは異様なほど穏やかで、疲労困憊の冒険者たちを癒やすように設計されていた。
「すごい……ほんとに休めるんだ」
ソウタが荷物を下ろし、安堵の息をつく。
「でも、なんで今……?」
ユウキが首を傾げた。
やがて魔法映像版に案内が流れる。
『各ギルドの皆さま、ここで一夜を過ごしてください。
第7階層へは、明日朝9時にすべてのギルドが同時に進入します。』
「同時進入……?」
ミナが眉をひそめる。
ここまでの順位やタイム差が無意味になるような発表だった。観客席に集まったギャラリーもざわめき始める。
「どういうこと? じゃあ、今までの順位は……」
ナオがぽかんとする。
仲間たちが首をかしげる中、ヒカルはふと顔をしかめた。
「……ああ、そうか。忘れてた。これ、まずいな」
前世のゲーム時代に刻まれた記憶がよみがえる。
なぜ、このタイミングで休憩を挟ませるのか。
なぜ、タイム差を帳消しにするのか。
答えを理解した瞬間、ヒカルの胃がきりきりと痛み出した。
夜、晩餐の時刻。各ギルドはレストハウスに用意された食事を手に取り、中央広場に設置された巨大な魔法映像版を見上げていた。
そこで流れたのは――衝撃的な告知だった。
『第7階層では、現時点で2位と3位のギルドによる直接対決を行います。』
「「「な、なんだとっ!?」」」
一斉にどよめきが起こる。
今までダンジョン攻略のタイムを競ってきただけのはずだった。ギルド同士の直接戦闘など、誰一人として予想していなかったのだ。
観客席に集まったギャラリーも騒然となり、広場は一瞬で熱気に包まれる。
「ギルド同士のバトルだって!?」「これは面白くなるぞ!」
「え、マジ? 本気でやんの?」
チャイも思わず声を上げる。
「チャイびっくり! 直接対決とか、初めてじゃん!」
隣のチャランとポランも、映像に釘付けになっていた。
「じゃ、じゃあ……今2位と3位って……」
チャランが震える声でつぶやく。
「ルミナスブレイブと……黒姫……?」
ポランが顔を青ざめさせた。
――そう、現状で第2位がルミナスブレイブ、第3位が黒姫。
つまり、両者は明日の朝、第7階層で正面から戦うことになるのだ。
さらに、映像は冷酷に続ける。
『なお、現時点第1位のギルドにはシード権が与えられ、直接戦を回避し、第8階層から進行できます。』
「……っ」
ヒカルは拳を握りしめた。
第5層で首位を取れていれば、こんな不利な条件を背負わずに済んだ。
だが、後悔しても意味はない。
敵は黒姫。舞が警戒していた通りの強豪。
特に剣神――彼から漂う邪悪な気配は尋常ではない。咲もまた、彼に操られている可能性が高いとヒカルは感じ取っていた。
そんな中、ギルド「タガ」のダーゲリは落ち着いた表情で、映像を眺めている。
そして、黒姫の剣神は――不敵に笑っていた。
ルミナスブレイブと黒姫。
運命の対決は、明日の朝に迫っていた。




