第81話 数の暴力
次に待ち受けていたのは、常識を超えた光景だった。
広がるのは、建物の内部とは到底思えない、果てしない空間。天井は霞み、端は見えず、まるで大陸そのものを切り取って閉じ込めたようだ。
そして、そこに蠢く影。
「……あれ、全部……ボス……?」
レナの声が震えた。
数を見積もることさえ恐ろしくなる。だが、ざっと見ただけで三万を超えていることは明らかだった。
観衆から悲鳴に近いざわめきが広がる。
「三万……!?」「無理だろ、そんな数!」
さすがの猛者ぞろいのギルドたちも、ここばかりは一瞬で片付けるわけにはいかなかった。
〈タガ〉は冷徹に進む。ダーゲリが百体を同時に屠り、他の五人も十体ずつを落とす。毎秒百五十体。圧巻の処理速度で敵を削っていくが、それでも殲滅には二百秒を要した。
〈黒姫〉は暴威そのもの。剣神が一振りで百体、咲が一振りで百体。さらに他の四人で五十体。毎秒二百五十体の撃破速度。それでも、完全制圧まで百二十秒。
だが――。
「逆転の時です!」
ユウキが声を張り上げた。
「レナさん、MP支援をお願いします!」
「えっ、い、いくわよ! 《MPリサイクル》!」
レナが全員の魔力をユウキへと送り込む。
ユウキは詠唱を開始した。
「――《マジックセイムタイム・セット三万》!」
「「「さん……まんっ!?」」」
ルミナスブレイブの面々も、会場も、同時に息をのんだ。
放たれた魔法陣から迸る光。しかし――さすがに三万全てを展開する魔力はなかった。
現れたのは二千の火球。だが、それだけでも空を埋め尽くすには十分すぎた。轟音と共に、二千体のボスモンスターが一気に消し飛ぶ。
観衆が叫び声をあげる。
「二千同時討伐だと!?」「ありえねええ!」
その余韻の中、ソウタが叫ぶ。
「俺が応援する!この戦いの中で成長しよう!!それが勝敗を分けるんだ!」
レナも強く頷いた。
「私も……試してみたいことがあるの! もしかしたら……できるかも!」
ユウキは一瞬だけ笑みを見せ、次の瞬間には覚悟を宿した瞳で仲間を見渡した。
「やりましょう! きっとできます!」
「――《マジックセイムタイム・セット二万八千》!!!」
会場が再び騒然となる。
「残りを一気に……!?」「無茶だ!」
だが、そこでレナが叫んだ。
「《MPリサイ……じゃなくて、MPサーキュレーション》!!!」
光の奔流が弾けた。今までのように仲間から魔力を送るのではない。――なんと、周囲のボスモンスターから魔力を吸収し始めたのだ。
「なっ……モンスターから!?」
観衆はさらに驚愕する。
だが、レナの顔には苦痛が浮かんでいた。制御しきれない。精神が限界を迎えつつある。
そのとき――ソウタが雄叫びをあげた。
「《超絶活性!! 応援ならぬ――豪援!!》」
「豪援!?」ヒカルが思わず聞き返す。
ソウタの力が爆発する。レナの精神力が何倍にも膨れ上がり、表情から迷いが消えた。
「わ、わたし……今なら、なんでも成功できる……」
レナの声は驚くほど落ち着いていた。
「《MPサーキュレーション》!!!!」
瞬間、二万八千のボスモンスターから一斉にユウキへと魔力が流れ込む。
「ぐっ……制御が……!」
ユウキの額に汗が滲む。頭上に浮かび上がる火球は、もはや数えることができない。
一万、いや、それ以上。天空を覆い尽くす紅蓮。
「……頭が……割れそうだ!」
「ユウキ!! 《豪援》!!!」
ソウタが再び叫び、今度はユウキへと力を送り込む。
「……っ、く……まだいける!」
ユウキが必死に歯を食いしばり、腕を高く掲げた。
「はあああああああああああああああああああああああ!!!!!」
轟音とともに、二万八千の火球が一斉に解き放たれる。
空が、夕暮れどころか血のように赤く染まった。雨のように降り注ぐ火の玉。地響きが続き、空気そのものが燃え上がるようだった。
そして――。
すべてが終わった。
残骸すら残さず、三万体のボスモンスターが消滅していた。
ユウキは最後の力で仲間をテレポートさせ、第四階層への階段前に立っていた。
掲示板が輝き、文字が浮かび上がる。
【ルミナスブレイブ 第四階層へ一位通過】
「三、三万体を……三十秒で……!」
観衆は息を呑み、誰もが声を失った。
ルミナスブレイブの快進撃は、ついに他の猛者たちを凌駕したのだ。
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