第8話 名声の始まり
夕暮れの鐘が街に響き渡るころ、四人は縄で縛られた盗賊たちを引き連れ、ギルドの正門へと戻ってきた。
「……あれ、盗賊だ!」
「生きてる!? 本当に捕まえてきたのか!」
「いや待て、先頭の白髪……あれ、誰だ?」
ざわめきが広がり、人々が通りに集まっていく。
「ヒ、ヒカル……みんな見てるよ」
ナオが不安げに袖をつかむ。
「気にするな」
ヒカルは短く答え、盗賊の縄を引いた。
「ふふ、注目の的だな。こういうの、悪くない」
ユウキは小声で笑みを漏らす。
「ねぇ、見られるの嫌じゃない? 私はけっこう好きかも」
ミナが肩をすくめ、群衆に手を振った。
「わ、わぁ……手振らないでよ! 余計に目立っちゃう!」
ナオは顔を真っ赤にして俯く。
盗賊を衛兵に引き渡すと、拍手と歓声があがった。
「助かったよ! これで街道は安心だ!」
「ありがとう、ありがとう……」
老商人が涙ながらに礼を述べ、子どもたちが「すごーい!」と叫んで駆け寄ってくる。
「……ふぅ」
ヒカルは人々に一礼し、仲間を促して歩き出した。
街の空気は昨日までとは違っていた。
「串焼きだ! ほら、持ってけ!」
露店の主人が笑顔で差し出す。
「これはお礼よ、余ったパンだから遠慮しないで」
パン屋の夫婦が袋を渡す。
「今夜から宿代を安くしてあげるよ」
宿屋の女将が声をかける。
「わ、私……こんなの初めて……!」
ナオの目に涙がにじむ。
「ははっ、浮いた分で魔法書三冊目だ!」
ユウキが歓喜の声をあげた。
「ほんと現金な人だね」
ミナは苦笑しつつも嬉しそうだった。
その夜、四人は酒場に腰を下ろした。
「わぁ……! このお肉、めちゃくちゃ美味しそう!」
ナオは目を輝かせて皿をのぞきこむ。
「報酬はそこそこだったが……これで魔法書が二冊は買えるな」
ユウキは銀貨を指で弾きながら計算を始めた。
「うんうん、まずは胃袋を満たしてから考えようよ」
ミナは笑いながらビールをあおる。
「みんな静かにしろ。視線を感じる」
ヒカルが低くつぶやくと、周囲からの噂話が耳に入った。
「新人だってよ、あの白髪の青年……」
「盗賊団を全員捕まえたらしい」
「信じられるか? 普通は返り討ちだぞ」
「ひ、ヒカル……みんな私たちのこと言ってる!」
ナオはスプーンを落としそうになる。
「堂々としていろ。やったのは事実だ」
ヒカルは落ち着いてスープを口に運んだ。
「ふふん、聞いた? “信じられない”だってさ。もっと信じられない戦い方、見せてやろうか?」
ユウキがわざと大げさに声を張り上げると、ナオが慌てて彼の口をふさいだ。
「も、もう! 調子に乗らないで!」
「はは、仲良しだねぇ」
ミナは肩を揺らして笑った。
翌朝、ギルドに呼び出された四人は、マスターの執務室へと通された。
「お前たちが例の新人か!」
豪快な声が響く。大柄なギルドマスターが立ち上がり、手を叩いて笑った。
「よくやった! 盗賊団を捕らえたと聞いたぞ!」
「そ、そんな……私なんて何も……」
ナオが慌てて両手を振る。
「いやいや、謙遜はいらん!」
マスターは机を叩き、目を輝かせる。
「あの盗賊団は街道の脅威だった。倒すだけでも十分だが、生け捕りとは……お前たちの名は広まるだろう!」
「……ありがたく思います」
ヒカルは短く頭を下げた。
そこでマスターの声色が変わった。
「実はな……もう一つ頼みたいことがある」
「えっ、もう次の依頼ですか?」
ナオが驚いて目を丸くする。
「そうだ。商人の一団が隣町シャトーへ向かう途中で、盗賊に狙われている。今も街道沿いで馬車を襲われかけているという報告が入ったばかりだ」
「今も……!?」
ユウキが思わず身を乗り出す。
「じゃあ時間との勝負ですね」
「お前たちなら任せられると確信した。護送は危険だが、成功すれば商人ギルドからの信頼も厚くなる。どうだ、受けてくれるか?」
ヒカルは迷わず口を開いた。
「……やろう。人の命が懸かっている」
「ひ、ヒカル……そんなに即答で……」
ナオは慌てながらも視線を落とし、やがて小さく頷いた。
「でも、そうだよね。困ってる人がいるなら……」
「ふふ、報酬も期待できそうだしな」
ユウキは口角を上げる。
「決まりね。あんたがそう言うなら、付き合うわ」
ミナはにやりと笑い、肩を竦めた。
ギルドマスターは満足げに頷き、机の上に簡易地図を広げた。
「よし、すぐ出発しよう!」
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