第72話 王都への帰還
小惑星衝突の爆発が鎮まり、黒い霧と土埃がようやく消え去ったころ。
ルシフェルが立っていた洞窟の奥、石の棺のような場所から、かすかな光が漏れていた。
「……これは?」
ミナが駆け寄ると、そこには繭のような光の殻。その中に、眠るように横たわる人影があった。
「王女殿下!」
ソウタの声に一同がはっと息を呑む。
ルシフェルに囚われていた王女は、奇跡的に無事だった。魔力を吸い取られてはいたが、命までは奪われていない。仲間たちはほっと胸を撫で下ろした。
帰還の段になり、問題が浮上する。
リュウとリリカは未だ意識を取り戻さず、転移のための魔法陣を描ける者がいない。
「僕が……やってみますけど……」
ユウキが必死に符号をなぞってみせるが、複雑な術式は途中で途切れ、成功には至らない。
「困ったな……このままでは帰れないぞ」
レナが顔を曇らせたそのとき。
「にゃっ」
軽やかな鳴き声とともに、チャイが一歩前に出た。
彼女の体から淡い光が広がり、床に幾何学模様が浮かび上がる。――それは出発のときに踏み込んだ、あの白銀の魔法陣そのものだった。
「チャイ……まさか、覚えたのか?」
ヒカルが驚愕の声をあげる。
「うん、にゃ! あの時の“感じ”を、体に刻んでおいたにゃ!」
眩い光が一同を包み、次の瞬間、彼らは王城の広間へと帰還していた。
王女は無事に父王のもとへ引き渡された。
歓喜と安堵の涙が広間を包み、王は深々と頭を垂れて言った。
「よくぞ……よくぞ我が娘を救ってくれた。そなたらは王国の誇りだ」
その場でルミナスブレイブの面々には、王家御用達の宿屋で治療と静養を受けることが命じられる。
翌日。
ナオは長い眠りから目を覚ました。
――戦いの中で聞いた声が脳裏に蘇る。
『お前の力をお前自身で証明しろ!』
あのとき、絶望しかけた心を立ち上がらせてくれたのは、ヒカルの叫びだった。
仲間――そう思っていた存在が、気が付けばもっと近く、もっと特別に感じられていた。
ナオは胸に手を当て、静かに頬を染めた。
一週間後。
瀕死だったリュウとリリカも回復した。驚くべきことに、傷は思ったほど深くはなく、致命傷だけを外すかのように受けていたのだという。
天使と悪魔の混血という特異体質もあって、回復は驚くほど早かった。レナの迅速な応急処置も功を奏したのだろう。
「……ナオ。あとはお前たちに託す」
リュウとリリカはそう告げて、長年の仲間と共に築いたギルド《白銀の双剣》を解散することに決めた。
次代を担うのはルミナスブレイブ――彼らこそが、後継者にふさわしいと認めたのだ。
ソウタ、ミナ、ユウキも数日の休養で体調を取り戻し、再びいつもの笑顔を見せるようになった。もちろん、ヒカルも変わらず健在だ。
そして数日後。
ルミナスブレイブのギルドハウスに、王家からの重厚な封蝋付きの招待状が届いた。
――ランド祭。
王都最大の祭典で、彼らは主賓として招かれることになった。王国からの感謝状を授与されるだけでなく、ワールド全土から注目を集める存在となったのだ。
さらに王国の使者は告げる。
「今年のランド祭では、特別な催しとして《ダンジョンキングオーダー ザ・ワールド》を開催する。ギルドパーティ編とソロ編――各国の代表ギルドだけが参加する特別仕様だ」
ランド王国からはルミナスブレイブが選出された。
古豪ギルド《白姫》や《トラベラント》は自ら辞退し、《ヒストリー》や《白銀の双剣》も彼らを後押しした。渋々ながら《デビルズ》も譲ることになった。
王国の使者はさらに続ける。
「三大王国――ランド、ブルーシー、マウントグリーン。それぞれの代表が顔を揃えることになる」
その名を聞いた瞬間、ギルド《白姫》のギルマス、舞が言葉を添えた。
「ブルーシー王国は……油断しないことね。あの国のギルドは島国特有の環境で、独自の進化を遂げているわ。あなたたちにとって最大の壁になるかもしれない」
新たな戦いの幕が、静かに上がろうとしていた。




