第69話 悪魔ルシフェル開戦
■希望が尽きる谷 ― ルシフェルとの対峙
谷奥の洞窟から、黒紫の光が膨れ上がり、圧倒的な威圧感を伴って一人の女が姿を現した。
白い肌、艶めく漆黒の髪。背には禍々しくも美しい黒翼。瞳は血のように赤く、唇には不敵な笑みが浮かんでいる。
「……久しぶりね。あら、あのときの顔ぶれが揃っているじゃない」
甘やかで、しかし毒のように冷たい声。悪魔ルシフェル――。カイ討伐時以来の再会だった。
彼女はそのときすでに、この展開を予想していた。人間たちが自分に挑んでくることを。
だが、この世界そのものを手にしても退屈だと悟っていたルシフェルは、余興として彼らとの戦いを楽しみにしていたのだ。
「よくもまぁ、人間の分際で悪魔に会いに来れたものね……」
挑発するように笑みを深め、視線をリリカとナオに移す。
「ふふ、そこの天使の血の薄まった人間二人じゃ、とてもじゃないけど私には勝てないわ」
その声には絶対的な自信と残酷な愉悦が混じっていた。
■絶望を嗜む悪魔
ルシフェルはゆっくりと歩み寄りながら言葉を続けた。
「カイ討伐時にあなたたちを見逃したのは、良い戦いになると思ったからじゃないの。……あなたたちの悲壮感を、この目で見てみたかったのよ」
妖艶な笑みが歪みに変わる。
「幸せそうな人間が絶望に沈む姿――それが、悪魔にとって最高のスパイスだから」
その一言に、ユウキは青ざめ、声を震わせた。
「ぼ、僕……ちょっと……」
ミナも無意識に後ずさり、肩を抱いて震える。
「落ち着け」
レナがミナの手を握り、ソウタがユウキの背中を叩いて言う。
「ビビる気持ちはわかる。でも俺たちは仲間だろ」
ナオは蒼白になりながらもリリカとリュウに支えられ、必死に立っていた。
■冷静な男
そんな中、ただ一人、ヒカルは冷静さを保っていた。
(……この会話、前世のゲームで散々見たやり取りだ。聞き慣れたセリフだな)
もちろん、現実の今はただのイベントではない。心臓を締め付けるような緊迫感はある。
だが、既視感が彼の心を落ち着けていた。
「……もうメンタル面で仕掛けてきてるんだな。さすがだ」
長剣を構え直し、冷ややかにルシフェルを睨む。
「だが、お前の目的は――悪魔と人間の世界の境界を壊して、もっとカオスな世界を楽しむことだろう。
それを邪魔する存在が、俺たち。そして……天使の血を継ぐ者たち」
一歩前に出て、声を張り上げる。
「皆、臆するな!俺たちの戦いは、ここからだ!」
「ヒカル!」
仲間たちの瞳に再び光が宿る。恐怖は残っている。それでも、ヒカルの言葉が彼らを繋ぎ止めた。
「……チッ」
ルシフェルが舌打ちし、紅の瞳を細める。
「じゃあ、圧倒的な差を見せつけてあげるわ!」
■開戦 ― 黒霧魂吸
ルシフェルの周囲に黒い霧が渦巻き、冷気とともに命を吸い上げる圧倒的な必殺技が発動する。
「"黒霧魂吸"――!」
全員を即死に至らせる悪魔の必殺。だが、その瞬間――
「そんなもの、効くかよ!」
ソウタが立ち塞がり、赤髪を振り乱して叫んだ。
彼の応援スキルが光を放ち、黒霧を掻き消す。
「……っ!? 以前は偶然防いだはず……なのに」
ルシフェルの瞳に驚きが走る。ソウタの力はすでに精度を増していたのだ。
その虚を突き、ミナが縄を操り、的確なタイミングで拘束を仕掛ける。
「今!」
ルシフェルの四肢が縛られ、動きが止まった。
すかさずリリカとナオが飛び込み、渾身の一撃を叩き込む。
「はぁああっ!」
聖なる光と双剣の煌めきが重なり、ルシフェルの魔装に亀裂が走る。
「よしっ!」
一同が声を上げ、作戦成功を喜んだ。
■精神干渉 ― “執着”
――だが、その時だった。
危機に陥ったはずのルシフェルが、ゆっくりと口角を吊り上げた。
「ふふ……面白い」
次の瞬間、ナオの瞳が赤く濁り、リリカへと大剣を振り下ろした。
「ナオ!?」
観察力に優れるユウキがすぐに気づく。
「精神干渉だ!ルシフェルが……ナオの中の悪魔の血を操ってる!」
ソウタが応援を重ね、干渉を解こうと試みるが――
「……っ、ダメだ!俺は……ミナを……守らなきゃ……」
ソウタ自身がルシフェルの力に囚われ、応援が途切れてしまう。
次々と仲間が幻覚に囚われていった。
ユウキは天を仰ぎ、存在しない師と会話を始める。
ミナは母の幻影に手を伸ばす。
レナはヒカルだけを見つめ、意識を奪われる。
ルミナスブレイブは、瞬く間に戦力外へと追い込まれていった。
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