第68話 希望が尽きる谷 ― 闇に沈む絶望の大地
光の奔流が収まり、足元に固い感触が戻った。
ルミナスブレイブが目を開けたとき、そこは王都の華やかな石畳とは対極の世界だった。
谷は、常に薄闇に包まれていた。昼であるはずなのに、頭上を覆う空は濁った灰色。太陽の光は厚い雲に遮られ、わずかな明かりさえ谷底には届かない。
大地はひび割れ、そこから瘴気のような黒煙がじわじわと漏れ出している。腐臭と焦げ臭さが入り混じり、呼吸をするだけで胸がざらつく。
谷を囲む断崖は、鋭く抉られた黒岩でできており、まるで巨大な爪でえぐり取られたように禍々しい。遠くには、地鳴りのような低音とともに岩肌が崩れ落ちる音が響き、自然の生気が一切感じられない。
圧倒的な瘴気
ミナが顔をしかめた。
「……重い。空気が、まとわりついてくるみたい」
ソウタが拳を握りしめる。
「これが……悪魔の巣かよ。想像以上だな」
確かに、ここに立つだけで体力を削られるような感覚がある。
人間にとって生きることそのものを拒絶する、そんな土地だった。
ユウキが視線を巡らせ、瓦礫を見つめる。
「……見てください。あれは……かつての祈りの像?」
谷の奥には、半ば崩れた大理石の像が転がっていた。翼を広げる天使を模したものだ。しかし、その顔は抉られ、両翼は引き裂かれていた。
「ここは、昔……人が天使に祈った場所だったのかもしれない」
レナが低く呟く。
「けれど、今は……希望が尽きた谷」
その言葉通り、像の周囲には無数の黒い爪痕が刻まれていた。まるで信仰そのものを踏みにじった痕跡のように。
リリカが胸に手を当て、蒼白な顔を上げる。
「……いる。この谷の中心……あそこに、ルシフェルが」
彼女の視線の先、谷奥に開いた巨大な洞窟から、黒紫の光が断続的に漏れていた。
脈動するそれは、まるで生きているかのように谷全体を震わせる。
リュウも頷いた。
「間違いない。……奴がいる」
金髪を揺らし、ナオが拳を強く握りしめた。
「怖い……でも、逃げない。ここで終わらせる」
彼女の震える声は、しかし確かな勇気を帯びていた。
ヒカルは長剣を握り直し、仲間たちを見回した。
(……前世の画面越しじゃなく、今は俺たちがこの場に立ってるんだ)
彼の胸中に去来するのは、恐怖と興奮、そして――仲間を信じる気持ち。
「希望が尽きる谷」――その名に違わぬ絶望の舞台。
ここから、悪魔ルシフェルとの死闘が始まろうとしていた。
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