第67話 転移の間
まだ夜明け前、王都の地下深く。
かつて白銀の双剣が悪魔討伐のために刻んだと伝わる巨大な転移陣が、静かに青白い光を放っていた。
ルミナスブレイブの面々は、その魔法陣を囲むように立っていた。
誰も口を開かない。緊張が空気を押しつぶすように張り詰めている。
「ここから先は……生きて戻れる保証はない」
リュウの声が低く響く。
「だが、俺たちが行かなければ、ランド王国は滅ぶ。姫も……そして、未来も」
彼の眼差しは鋭く、だが仲間を見渡す瞳は確かな信頼を宿していた。
「指揮は俺が執る。だが、この戦いを作り上げるのはお前たち一人一人だ」
「……ビビってねぇよ」
ソウタは拳を握り、赤髪を揺らして前を見据える。
「必殺技だろうが、究極奥義だろうが、俺が全部弾いてやる。絶対に仲間は死なせねぇ」
「私も……この手で、縛る」
黒髪を結わえ直し、ミナは深呼吸をした。
「どんなにわずかな隙でも見逃さない。必ず捕らえる。――そのために、母を超えてきたんだから」
魔導書を抱えたユウキは、眼鏡の奥の瞳を静かに輝かせる。
「魔装バリアさえ壊れれば、僕の魔法は必ず通る。時空も、重ね撃ちも……すべてこのために磨いてきました。絶対に役立てます」
「なら、私があなたを支えるわ」
青い髪をかき上げながら、レナがユウキの隣に立つ。
「あなたが力を出し切れるように、私の魔力を分ける。……そして、ヒカル。あなたの背中も守る」
一瞬だけ彼女の頬が赤くなった。けれど、すぐに真剣な眼差しに戻る。
両親の隣に立つナオは、金色の髪を揺らして拳を胸に当てた。
「まだ不安定だけど……私も戦う。お父さんとお母さんからもらった力を、絶対に無駄にしない」
リリカが優しく娘の肩に触れる。リュウも頷いた。
「……なら、俺も出し惜しみはしない」
ヒカルは静かに長剣を抜いた。白銀に輝く刃が、転移陣の光を反射する。
「どんな強敵だろうと、俺たちで斃す。――そう決めて、ここまで来たんだ」
「みんなー! 気合入れてこー!」
小さなマスコットのようなチャイが、転移陣の上を飛び跳ねる。
「絶対勝つから! 絶対負けないから! チャイも応援するからね!」
その声に、仲間たちの表情が少しだけ和らいだ。
リュウが剣を掲げ、魔法陣に魔力を流し込む。
轟音とともに、光が一気に立ち昇った。
「行くぞ――!」
その瞬間、ルミナスブレイブの全員の姿は光に包まれ、地下の転移陣から消え去った。
光に呑まれながら、ヒカルは誰にも言えない記憶を思い返していた。
――前世のゲームで、ルシフェルはエンドコンテンツの一つとして用意されていた。
そして彼女のアルティメットスキルは、“執着”。
強力な精神干渉であり、どんな準備をしても完全な対策は不可能とされていた。
前世の話を仲間に打ち明けられないのは、この世界で自分が転生者であることを隠すためだけではない。
そもそも――対処の術がない。だから口にできないのだ。
(……でも、きっとなんとかなる)
剣を握る手に力を込めながら、ヒカルは自らにそう言い聞かせた。
次に彼らが立つのは、“希望が尽きる谷”。
悪魔ルシフェルの待つ、最前線の地である。
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