第66話 転移前夜 ― 各々の胸中
作戦会議が終わり、皆が散会したあと。
王都の喧騒もここまでは届かず、宿屋の夜は静かだった。
--ミナとソウタ--
窓辺に座り込んだミナは、拳を握りしめていた。
「……母さんを超えた。今度こそ証明してみせる」
その背後から声が飛ぶ。
「気負いすぎんなよ」
振り向けば、ソウタが壁に背を預けて立っていた。
「お前が縛る。その一瞬が勝負を決める。だが……命を懸けるのは、俺ら全員だ」
「……うん」
ミナは真っ直ぐにうなずいた。その瞳には強い光が宿っていた。
--レナ--
宿の自室で、レナは鏡に向かって髪を梳いていた。薄い青の髪が月光を受けてきらめく。
「……奇跡の復活。私に扱えるだろうか」
呟くと、思わずヒカルの顔が浮かんだ。
(彼は……なぜ、あんなにもいろんなことを知っているのだろう)
修行中、早雲に問われた言葉が脳裏をよぎる。
――彼は、転生者かもしれぬ。この世界とは別の世界から来たのやもしれん。
「もしそうだとして……私は、どうしたいのだろう」
胸がざわめく。焦がれる想いと、確かめたい真実。
「今は……考えている暇なんてないわ」
彼女は小さく頭を振り、手を胸に当てた。
「明日は、みんなを必ず守る」
--ユウキ--
机の上に魔導書を広げ、羽ペンを走らせるユウキ。
「……同時発動は、ある程度安定してきた。でも、まだ伸ばせるはずだ」
魔力の消耗に眉をひそめながらも、彼の目には確固たる自信が宿っていた。
「僕がやらなくちゃ。……みんなを勝たせるために」
--ナオ--
両親の部屋に戻ったナオは、布団の上で膝を抱えていた。
リュウとリリカの娘として、自分の役割を分かっている。だが――。
「私……まだ不安定なんだよね」
声が震える。
リリカがそっと肩に手を置いた。
「大丈夫。無理をしなくていい。お前ができるだけのことをすれば、それでいいんだよ」
ナオは小さくうなずく。心のどこかで、自分の血がこの戦いの鍵になることを理解していた。
--ヒカル--
窓辺に立ち、月を見上げるヒカル。
彼は自らに宿る“ゲーム時代の知識”を開放し、神裁と神化を手にした。
「……本当に、こんな技を仲間に見せていいのか」
胸中で自問する。秘密は秘密のままに。けれど、仲間を救うためなら使うしかない。
背後から声がした。
「ヒカル。考えごと?」
振り返れば、レナが立っていた。心配そうな瞳が向けられる。
「……大丈夫だ」
短く答える彼に、レナは小さく微笑んだ。その笑顔に、ヒカルの胸が一瞬だけ揺れた。
--夜明け前--
それぞれの部屋で、それぞれの思いを胸に過ごす夜。
やがて訪れる夜明けは――悪魔ルシフェルとの決戦の時を告げる光となる。




