第63話 宿屋での再会 ― ミナとソウタ
王城にほど近い、城下町の一角。
赤い絨毯が敷かれ、上質な木の香りが漂う王室御用達の宿屋は、昼でも静かで落ち着いていた。
この場所で修行が終わったら、集まる約束になっている。少し良い宿屋が使えるのは、
もちろんランド王のはからいである。
扉を開けて入ったミナは、まだ誰もいない広間を見渡す。
「……私が一番乗り、かな」
肩からかけた鞄を下ろし、胸に手を当てて息を整えた。
その瞬間――
「よっ」
背後から軽い声がした。
「わっ!」
思わず飛び上がったミナの目に映ったのは、いつもの調子で片手をひらひらさせるソウタの姿だった。
「び、びっくりさせないでよ!」
「はは、ごめんごめん。けど、こういう驚いた顔、やっぱ面白いな」
からかい半分の笑みを浮かべながら、ソウタは対面の椅子に腰を下ろす。ミナも仕方なく席についた。
修行の成果
「で……どうだった? 修行の方は」
ソウタの問いに、ミナは一度目を閉じてから、ゆっくりと答える。
「……母さんを、超えたよ。世界一の拘束士だって、胸を張って言えるくらいに」
「おお、すげぇじゃん!」
ぱっと笑顔になるソウタ。しかしミナは少しうつむいて続ける。
「でもね……思ってるんだ。自分の力を試すなら、ルシフェルが最高の相手だって。世界を救うためだって分かってる。でも、そんな考え……ちょっと、不謹慎だよね」
眉を曇らせるミナに、ソウタは腕を組んで、きっぱりと答える。
「別にいいじゃん。ミナにはミナの思いがあってさ。それで本気で挑んで、ルシフェルを倒せたなら……世界も救えるし、お前の力も証明される。二重にいいことだろ?」
「……ソウタ」
励ますような真剣な瞳。その言葉に、ミナの胸が少し温かくなる。
二人の距離
ふと、ミナは小さく尋ねた。
「ねぇ……どうしてソウタは、そんなに私のこと応援してくれるの?」
ソウタは一瞬目を丸くしたあと、苦笑いしつつ頭をかいた。
「なんだよ、忘れたのか? ミナ、昔よく言ってただろ。『大きくなったらお兄ちゃんと結婚する!』って」
「なっ……!」
顔が一気に真っ赤になる。
「そ、それは子どもの頃の話でしょ!」
ソウタは少しだけ照れくさそうに笑みを崩し、でも真っ直ぐに続けた。
「だからさ。未来のお嫁さんを応援するのは当然だろ」
その言葉に、ミナの心臓が跳ねる。
実際のところ、ソウタにとってミナはずっと「幼馴染で妹みたいな存在」だった。
だが――彼女が一生懸命に努力し、悩み、前を向いて進んでいく姿を見るうちに、応援したいと思う気持ちは変わっていった。妹としてだけじゃない、大切な存在として。
「……」
ミナは視線を逸らしながら、小さな声で答える。
「……う、うん……」
その頬は赤く染まり、恥じらいに揺れていた。
余韻
二人の間に、少しだけ気まずい沈黙が流れる。
やがてソウタが空を見上げるように笑って言った。
「ま、俺たちだけじゃない。他のみんなも絶対、何かを掴んで帰ってきてるはずだ」
「そうだね……あの仲間たちだもん。きっと」
ミナも微笑みを浮かべる。
宿屋の窓から射す陽光の中、二人はそれぞれの思いを胸に、仲間たちの到着を待った。
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