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第5話 隠しフロアのドラゴン

ダイアウルフ討伐を終えた四人は、ギルドに戻ると早速戦果の報告を行った。受付嬢が目を輝かせ、証拠の魔石を確認するや否や、感嘆の声を上げる。


「ダイアウルフを討伐……! 中級冒険者でも苦戦する相手を……本当に、ですか?」


 半信半疑の受付嬢に、ナオは胸を張って答えた。


「ほんとに! 私、受け止めたんだから!」


「ひぃっ……あ、あんな大きな相手を……」


 ギルド中がざわめく。やがて受付嬢は笑顔になり、金貨の入った袋と共に、もう一つの品を差し出した。


「こちらが報酬と……それから、討伐証明と一緒に発見された不思議な鍵です。恐らく、ダンジョンの隠し区画へ続くものかと」


 ヒカルが手に取ると、古びた銀の鍵が淡く光を放った。


「……隠しフロアか。興味深いな」


「わ、わたし達、もう一回あの洞窟に行くの!?」


 ナオが怯え気味に叫ぶが、ユウキは冷静に頷いた。


「今の戦いで連携の手応えは掴めた。もう一歩踏み込む価値はある」


「ふむふむ……つまり、レアドロップのチャンスってこと?」


 ミナは漫画雑誌を閉じ、にやりと笑う。その目は、珍しく本気の光を宿していた。


 再び「灰狼の巣窟」へ。道中は慣れたもので、ナオとユウキがテンポよく敵を捌き、ミナが時折拘束で援護する。最奥の祭壇に辿り着くと、銀の鍵が光り、岩壁が音を立てて開いた。


「……やっぱり隠しフロアだ」


 中は広大な空洞で、燐光を放つ鉱石が青白く照らしていた。その中央に――小さな影。


「え……こ、子供?」


 ナオが首を傾げる。だがそれはただの子供ではなかった。鱗に覆われた体、長い尾、そして小さな翼。幼体ながらも、圧倒的な存在感を放つ――チャイルドドラゴンだった。


「お、おい……まさか、ドラゴン!?」


 ユウキの顔色が変わる。


「まだ子供とはいえ、竜は竜。下手な魔物の比じゃない」


 ヒカルの声は硬い。チャイルドドラゴンは澄んだ瞳で四人を見据えたかと思うと――轟音と共に炎を吐き出した!


「ぎゃああああ! 火事火事火事!」


 ミナが飛び退き、漫画雑誌を慌てて懐に隠す。


「いや、そこ守るのは命じゃない!?」


 ユウキが叫ぶが、ミナは真剣に本を撫でていた。


「だって限定版……」


「どうでもいい!」


 炎の直撃をナオが剣で弾き飛ばし、ヒカルが叫ぶ。


「ナオ、受け止め! ユウキは援護! ミナ、拘束だ!」


「任せろー! ――《拘束》!」


 しかし、チャイルドドラゴンの体は微かに震えるだけで、すぐに鎖を打ち砕くように自由を取り戻した。


「えっ!? 効かない!?」


 ミナが愕然とする。ヒカルは冷静に分析した。


「竜種には圧倒的な魔力耐性がある。常時は通じない……だが、隙を突けば話は別だ」


「隙……」


 ミナは唇を噛みしめた。自分の役割を果たせない無力感が胸を締めつける。炎の息吹が襲いかかり、ナオが必死に盾となり、ユウキの魔法も焼き払われる。それでもドラゴンの猛攻は止まらない。


「うう……どうすれば……」


 その時だった。チャイルドドラゴンが大きく息を吸い込み、再び炎を吐こうとした瞬間――ミナの目が光った。


「……今だ!」


 咆哮と共に炎が解き放たれた直後、一瞬だけ体勢が崩れる。その刹那、ミナは両手を広げ叫んだ。


「――《拘束》ッ!」


 目に見えぬ鎖が竜の四肢に絡みつき、巨体が地面に押し伏せられる。チャイルドドラゴンの瞳に初めて驚きの色が浮かんだ。


「動きが止まった……! ミナ、やったな!」


 ヒカルが叫ぶ。ユウキがすかさず詠唱を紡ぐ。


「《サンダー・ストーム》!」


 雷撃が竜を貫き、ナオが渾身の斬撃を叩き込む。拘束の効果で防御力が大きく下がり、攻撃が通る!


「わ、私……できた……! 本当に、ドラゴンを止められた!」


 ミナの瞳が潤む。すぐにドラゴンは鎖を引きちぎり、再び暴れだすが、その一瞬の隙が勝敗を分けた。最後にヒカルが渾身の一撃を振り下ろし、チャイルドドラゴンは地響きを立てて倒れ伏した。


 しばらくして、竜の亡骸が光に変わり、宝石のようなアイテムが残された。その中に、一際美しい銀の指輪があった。


「これは……《竜拘束の指輪》……。拘束中、対象の防御力を半減させる効果があるようです。」


 ユウキが解析して説明する。


「えっ……そ、それ、私が……?」


 ミナは恐る恐る手を伸ばし、指輪をはめる。すると魔力が彼女の体に馴染み、今まで以上に力強い感覚が広がった。


「すごい……! なんか、いける気がする!」


「これでミナは、単なる補助じゃなく、攻撃時の要にもなれるな、半減デバフは半端ない。」


 ヒカルの言葉に、ミナは珍しく照れくさそうに笑った。

 もちろん、ヒカルはこの指輪の効能を知っている。チート知識の1つだ。


「ふふっ……じゃあ次からはもっと褒めてもらうからね!」


「そこは変わらないんだな……」


 ユウキとナオが同時にため息をつき、四人の笑い声が隠しフロアに響き渡った。彼らの冒険は、まだ始まったばかりだ。

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