第4話 初めてのダンジョン攻略
ヒカル、ナオ、ユウキ、ミナ――。新たに組まれた四人のパーティは、本格的なダンジョン攻略に挑むことになった。
今回選んだのは、街の近郊にある「灰狼の巣窟」と呼ばれる中級ダンジョン。ケン、ミーシャ、レナとクリアできなかったダンジョンだ。
今の俺にはゲーム時代の知識があるから、ダンジョンの攻略法は既に心得ている。危険度は決して低くないが、四人での連携を試すにはうってつけの場所だった。たぶんクリアできるはず。
「うわぁ……本当に洞窟だね……じめじめしてるし」
ナオが顔をしかめて入り口を見つめる。
「魔力の反応もあるな。数は多いけど、個々の強さは中級レベルだ」
ユウキが冷静に魔力探知を行い、簡潔に分析する。
「まあまあ、最初の実戦テストって感じだな。慣れるにはちょうどいい」
ヒカルは淡々と答えながらも、心の奥では仲間の動きを確かめる絶好の機会だと考えていた。
「はーい、質問! 私はいつ活躍できるんだ?」
漫画雑誌を小脇に抱えたままのミナが、飄々とした調子で言う。
「……ダンジョンの入り口で漫画読んでる冒険者、初めて見たよ」
ユウキが呆れた顔をする。
「集中力高める儀式みたいなもんだよ。ほら、推しキャラが戦ってるページ見てテンション上げるの!」
「意味わかんない……」
ナオが首をかしげる。
そんなやりとりを眺めながら、ヒカルは小さく笑った。ミナの自由人っぷりは確かに扱いづらいが、彼女の能力の強力さを知るヒカルは心の中で期待していた。
ダンジョン内部に入ると、最初の群れが現れた。灰色の毛並みを持つ狼型モンスター、グレイウルフだ。十匹ほどの群れが一斉に牙をむき出しにして襲いかかってくる。
「よし、まずは動きを見せてもらう。ナオ、前に出ろ!」
「う、うんっ!」
ナオは剣を握りしめ、緊張しながらも前へ踏み込む。大振りではあるが力強い一撃で、一匹を真正面から叩き伏せた。
「よし、その調子。ユウキ、援護!」
「了解。――《ファイア・ボルト》!」
ユウキの火球が飛び、ナオに迫った別の狼を正確に撃ち抜く。
「わ、わっ、速い!」
ナオが驚くが、ユウキは冷静に肩をすくめた。
「剣士は近距離で止める。僕は後ろから削る。基本の役割分担だよ」
「ふむふむ……んじゃあ、私の番か?」
ミナがぽん、と手を打つと、狼たちの動きが一瞬ぎくりと止まった。まるで見えない鎖に縛られたかのように、次の瞬間にはその場で硬直し、動けなくなる。
「……え?」
ナオが思わず目を丸くする。
「な、なんだこれ……魔法の拘束じゃない……?」
ユウキが眉をひそめた。通常の魔法なら詠唱や魔力の光が発生するはずだが、ミナの拘束にはそれが一切なかった。
「ふふーん、これが私のスキルだよ。《拘束》! モンスターさんたち、しばらく大人しくしててね♪」
ミナはどこか得意げに笑い、自由にページをめくるような軽さで狼たちを完全に無力化していた。
その隙にナオが次々と狼を斬り伏せ、ユウキが火球で仕留める。戦闘は驚くほどあっけなく終わった。
「す、すごい……! 敵が動けなくなっちゃった……」
ナオが目を輝かせる。
「こ、これは……常識外れだ……。詠唱もなく、あんな広範囲に……」
ユウキも冷静さを失うほどに驚いていた。
「拘束士……やはり噂通りだな」
ヒカルは小さくつぶやいた。仲間にできたのはやはり幸運以外の何物でもない。
「ふふん、褒めてもいいんだよ?」
ミナが腰に手を当て、得意げに胸を張る。
「……ただし調子に乗るな。拘束は強力だが、万能じゃない。効かない相手も必ず出てくる」
ヒカルの冷静な指摘に、ミナは「へいへい」と軽く返すが、その瞳の奥には確かに理解の色が宿っていた。
その後も順調に進んでいく四人。
ナオは素直にヒカルの指示を受け入れ、剣技の感覚をどんどん吸収していく。
ユウキは冷静な判断で戦線を安定させ、ミナは時折気分屋らしく突然休憩を言い出すが、拘束スキルで絶大な貢献を果たしていた。
そして、ダンジョンの最奥。灰狼の親玉「ダイアウルフ」が姿を現した。通常のグレイウルフの倍以上の体格に、真紅の瞳を光らせている。
「こいつは中級の中でも上位……。気を引き締めろ!」
ヒカルの声と同時に、ダイアウルフが咆哮し突進してくる。
「ナオ、受け止めろ!」
「ええっ!? で、でもやってみる!」
ナオが盾代わりに剣を構え、必死に一撃を受け止める。衝撃で膝が折れかけるが、歯を食いしばって耐えた。
「今だ、ユウキ!」
「了解――《ライトニング・ランス》!」
雷の槍が放たれ、ダイアウルフの身体に直撃する。だが、親玉は怯むだけで倒れない。
「しぶといな……ミナ!」
「へいへい、任せときな! ――《拘束》!」
ミナのスキルが発動し、巨体が一瞬止まる。しかし、完全には封じ込められず、鎖を引きちぎるように力任せに動き出す。
「効きが甘い……やはり格上には完全には通じないか」
ヒカルが分析する。
「でも、動きが鈍ってる!」
ナオが叫び、隙を突いて剣を振るう。そこにユウキの魔法も重なり、最後にヒカルの一撃が決まる。
ダイアウルフは苦悶の咆哮を上げ、ついに地に伏した。
「……ふぅ、なんとかなったな」
ヒカルが剣を収める。
「やったぁ! 私、ちゃんと役に立てた!」
ナオが満面の笑顔で飛び跳ねる。
「冷静に見れば、まだまだ改善点は多いけど……悪くない初陣でしたね」
ユウキも満足そうに頷いた。
「ふふん、私のおかげでもあるよね~♪拘束♪拘束♪」
ミナがにやりと笑うと、ナオとユウキは顔を見合わせて苦笑した。
ヒカルはそんな仲間たちを見渡し、胸の奥が温かくなるのを感じていた。
一人では到達できない未来が、彼らとなら掴める――そう確信できた瞬間だった。
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