第32話 両親
二日目の挑戦が終わった。ナオは、初日よりクリアタイムを短縮することができなかった。
ギルドハウスに戻ったナオは、食堂の椅子にぐったり沈み込みながら机に突っ伏していた。
「はぁぁ……」
向かいに座るヒカルが、にやっと笑って言う。
「おい、ナオ。ため息で机がへこんでるぞ」
「へ、へこんでないよっ!? ……たぶん」
慌てて机をペタペタ押して確認するナオ。天然な反応に場が少し和んだ。
それでも、ナオの気持ちは重い。
「わたし……やっぱりお父さんとお母さんみたいな才能はないのかなぁ」
声が自然と小さくなる。
ユウキが目を丸くして、思いっきり両手を振った。
「そんなことありません! ナオさんが才能ないなんて、ありえません!」
ナオは俯いたまま続ける。
「でもね、今日だってタイムぜんぜん縮められなかったし……。お父さんとお母さんなら、もっとすごい記録出せてるはずでしょ? わたし、やっぱり二人みたいにはなれないんだよ」
場の空気が少ししんとした。ナオは言ったあとに、あっ、やっちゃった……と心の中でつぶやいた。
だが、ヒカルは真剣な表情でナオを見つめる。
「ナオ。お前、たった数日で俺の攻略法を吸収して、一時は5位に入ったんだぞ。あれはセンスがなきゃ無理だ」
「センス……」
「努力だけじゃ届かない領域がある。でもお前は、ちゃんとそこに手を伸ばしてる」
胸がじんわりと熱くなるナオ。けれどまだ少し納得しきれず口を開きかけたとき、ユウキが元気よく手を挙げた。
「はいっ! えっと……僕からもいいですか!」
「お前、先生か」
ヒカルの突っ込みに、ユウキは「ち、ちがいます!」と真っ赤になる。
そのやりとりに、ナオは思わず「えへへ」っと笑った。
ユウキはまっすぐナオを見て言う。
「ナオさんはナオさんです。親と比べる必要なんてありません。僕たちは、ナオさんの強さに何度も助けられてきました。だから、ナオさんはナオさんらしく、自分を高めて楽しめばいいんです」
「……ユウキくん」
「そうだな」ヒカルも頷く。「お前が剣を振るうのは、親のためじゃない。お前自身のためであり、そして今は仲間のためだ」
ナオは目をぱちぱちさせ、そして気づく。
――そうか。わたし、ずっと父さんと母さんの背中を追いかけてたけど、ちょっと違ったんだ。
「わたし……父さんと母さんからセンスをもらえたことに感謝して、それをわたしらしく磨けばいいんだよね。みんなと一緒に強くなって、その強さでみんなに恩返しできるようになれば……。それが、きっと二人にとっても嬉しいことなんだ」
自然と笑顔になるナオ。
「よーし! わたし、明日はもっとやるぞっ!」
「おっ、やる気出たな」ヒカルがにやっと笑う。「じゃあ明日は俺が、朝五時に叩き起こしてやる」
「ひ、ひどいっ! わたし寝坊助なのにー! えへへ……でも、ありがと」
「ふふ、僕も全力で応援します!」
食堂は笑い声に包まれた。落ち込んでいたナオの気持ちは、すっかり晴れていた。
◆三日目へ
その夜、ナオは部屋で大剣を磨きながら窓の外を眺めていた。
王都の夜景がきらきらと光を放つ。
「明日は……わたしらしく戦おう」
胸の奥に、あたたかな決意が宿っていた。
ソロオーダー三日目、最終決戦は、もうすぐだった。
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