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第3話 裏職業の拘束士、仲間になる

目が覚めたとき、俺は酒場の裏路地に転がっていた――そんな昨日から一転、今日は新しい一歩を踏み出す日だ。高火力玉を手に入れた俺は、ようやく「ダンジョン攻略」のスタート地点に立った。だが一つ、大きな問題がある。


「……パーティだ。メンバーがいないと始まらない。」


ゲーム時代の俺ならソロでも楽勝だったが、今の俺の火力ではソロで到底クリアできない。

つまり――仲間集めから始めるしかない。


***


街の冒険者ギルドは、夕方の人の集まりで熱気に包まれていた。酒場も併設されており、依頼を探す者、仲間を求める者、ただ酔って騒いでいる者……それぞれが思い思いの目的で集まっている。


俺は掲示板に目を走らせつつ、パーティ募集の札を手にした。「中級ダンジョン攻略メンバー募集」――簡潔に書いたものだ。条件は「最低限、戦えること」。


(……とはいえ、変な奴は入れたくないな。)


すると、背後から元気な声が飛んできた。


「ねぇ! それ、君が募集してるの?」


振り返ると、長い金髪の女の子が立っていた。年は俺と同じくらい。中級クラスの剣士装備を身に着けており、鎧越しでも分かるくらいグラマラスでスタイルが抜群だ。だが、その大きな瞳は少し頼りなげでもあった。


「そうだけど……君は?」


「ナオ! 剣士だよ! ダンジョン挑戦してみたいんだけど、仲間がいなくて……。私、あんまり頭使うのは得意じゃないんだけど、そのぶん教えてもらったことはすぐ覚えるから!」


言葉をまくしたてるナオ。どうやら考えるより先に動くタイプらしい。


俺は小さく笑って答えた。


「素直なのは悪くない。物覚えがいいなら、戦闘中の連携も期待できそうだ。」


「えへへ……! よかった! じゃあ、仲間にしてくれる?」


その笑顔は無邪気で、作り物ではないとすぐに分かった。俺は頷いた。


「よろしくな、ナオ。」


***


さらにメンバーを探していると、今度は小柄な少年が声をかけてきた。


「その募集札、まだ空きあります?」


茶色の短髪に落ち着いた瞳。年下に見えるが、姿勢や言葉遣いは大人びている。杖を携えているあたり、魔法使いだろう。茶髪で短髪の少年だ。


「俺はユウキ。魔法使いです。支援も攻撃もある程度こなせます。年下ですけど、足手まといにはなりません。」


自己紹介からしてしっかりしている。俺がうなずく前に、隣のナオが口を挟んだ。


「わぁ! かわいい! 小さいけど頼りになりそう!」


「……小さい言うな。僕、背が低いだけで普通に強いんですから。」


ぷくっと頬を膨らませるユウキ。真面目な顔から一気に子供っぽくなるギャップに、思わず笑いがこみ上げる。


「悪い悪い。けど、魔法使いが入ってくれるのは助かる。火力も支援もあるなら、バランスがぐっと良くなるな。」


「もちろん、やるからには全力を尽くします。」


ユウキの瞳は冗談抜きに真剣だった。その芯の強さに、俺はすぐ信用できると確信した。


***


こうして三人が揃った。あとはもう一人……だが、ギルドの喧騒の中、なかなか適任が見つからない。しばらくするとナオが元気よく手を挙げた。


「ねえヒカル! 最後の一人もすぐ見つかるって! だって、私たち三人がこんなに気が合ってるんだもん!」


「……根拠になってないけど、まぁいいか。」


「ほんとにすぐ見つかりますよ。」とユウキが冷静に言う。「こういうのは縁ですから。」


俺は二人を見て思う。奇妙な出会いだったが、確かに、信じてもいいと思える仲間に出会えた。落ちこぼれと笑われていた俺に、今は並んで歩く仲間がいる。


(これなら……行ける。)


***


そして四人目の候補を探していたとき――ふと俺は思い出す。「拘束士」というレア職業の存在を。


(……もし拘束士を仲間にできたら、それだけでアドバンテージは計り知れない。)


拘束士――モンスターを無抵抗状態に封じ込めることができる、強力かつ希少な職業。だが、なりたくてなれる職ではない。生まれつき特殊なスキルを持つ者だけが、拘束士になれる。そして、その存在を知っているのは限られた人間だけだ。


まぁ、本当に存在するのかと問われるほどレアであり、知っている人も少ないから、しょぼい職業だと思われている部分もある。でも、やばいぐらいに強力な職業で、トップレベルのギルドやパーティには必ず存在している。


もちろん、覇者だった俺は知っている。そして拘束士を見つけるための“あるコツ”も――漫画好きであること。


「漫画オタクを探せばいいんだ。」俺がそう呟くと、ナオとユウキがぽかんとした顔をした。


「え、なにそれ? ダンジョン関係なくない?」ナオが首をかしげる。


「ヒカルさん……冗談、ですよね?」ユウキが眉をひそめる。


「いや、真面目な話だ。拘束士は漫画好きの中に隠れてる。だから片っ端から当たってみる。」


***


その夜、ギルド酒場の片隅で、漫画の厚い本を抱えて読みふける少女を見つけた。黒髪ストレートの美少女が、椅子にだらしなく腰掛けながら、ページをめくる手だけが異常に速い。


「……完全にオタクだな。」俺が小声で言うと、ナオが興味津々で近づいた。


「ねぇねぇ、何読んでるの?」


少女はぱっと顔を上げる。紫色の瞳がきらきら輝き、嬉しそうに語り出した。


「これはね、勇者と魔王が実は兄妹だったっていう衝撃の展開があって――」


止まらない。まるで堰を切ったかのように語り続ける。ナオはぽかん、ユウキはあきれ顔。


「自己紹介を頼む。」俺が口を挟むと、少女は満面の笑みを浮かべた。


「ミナ! 拘束士! ……って言っても、誰も知らないんだよねぇ。でも私、けっこう得意なんだよ?」


そういうと彼女は、たまたま飛んでいたハエを透明な魔法の鎖で拘束して見せた。

ハエは無抵抗となり、地面に落ちた。


彼女の後ろを飛んでいたハエをだ。一切見ることなく、意図も簡単に小さなハエを

拘束してみせた。座標の捉え方が正確すぎる。


「やっぱり……!」


俺の胸が高鳴った。予想通り、この子は拘束士。漫画オタクで、しかも天才肌。愛嬌はあるが、気分屋の自由人でもありそうだ。会話しながらも漫画を読む手を止めない。


「拘束士? 何それ?」ナオが首をかしげる。


「そんな職業、聞いたことありません。」ユウキも目を細める。


俺は二人に簡潔に説明した。「拘束士は、生まれつきのスキルでモンスターを縛り、無抵抗にできる職だ。普通のプレイヤーじゃなれないし、知っている者も少ない。俺にとっては最強のパーティメンバー候補だ。」


ナオとユウキが同時に「すごっ……!」と声を上げた。


ミナは照れ臭そうに笑いながら、「ま、私でよければ一緒に行ってあげてもいいよ?」と肩をすくめる。


***


こうして――最後のピースが揃った。剣士の俺とナオ、魔法使いのユウキ、そしてレア職の拘束士ミナ。


不思議な縁に導かれて結成された新生パーティ。これなら、かつての覇者だった俺が再び頂点を目指すのに相応しい仲間たちだ。


「行こう。ここからが本当の始まりだ。」


→続く


次回: 「拘束士ミナ、加入!」 天才肌の自由人が加わり、新生パーティの初陣が始まる。

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