第2話 落ちこぼれの逆襲、始まる
目が覚めたとき、俺は酒場の裏路地に転がっていた。
頭がガンガンする。二日酔いか……いや、違う。
もっと鮮明な“何か”が脳に焼き付いている。脈打つように、次々と映像が流れ込んでくる。街並み、戦場の喧騒、燃え盛る魔法陣、そして仲間と共に駆け抜けた日々……。
「……思い出した。俺、知ってる。この世界を全部……」
この世界は、ただの異世界じゃない。
かつて俺がプレイしていた、超人気MMO―― 『ダンジョンキングオーダーオンライン』の世界そのものだ。
システムも、街並みも、モンスターの動きも、 そして――火力玉の仕様まで、全部、リアルに再現されている。
そして俺は、そのゲームで頂点に立った“元・覇者”。
エンドコンテンツを一人でクリアし、ギルド戦で三年連続MVP、 プレイヤーイベントで攻略本すら出るほどの記録を残した男――それが、俺だ。
だが、この世界に転生してからは、その記憶がなかった。 初級剣士として、ダメダメな冒険者生活を送っていた。クエストを失敗し、仲間に置いていかれ、笑われる日々。
けど、今は違う。すべてを思い出した。
「チャンスは、まだある……!」
この世界には、ゲーム時代と同じ仕様が残っている。
それを活かせば、こんな状態からでも、最短ルートで強くなれる!
そのために、まずやることは――
「隠しダンジョンだな」
普通のプレイヤーには知られていない、いくつかの“秘密エリア”が存在する。
ゲーム時代、俺だけがソロで発見していた裏技級の狩場。そこで火力玉やレアアイテムが高確率でドロップするのだ。
そして、その場所――【平和の森の裏層】には、 “とある条件”を満たすと、一定確率で「高火力玉」が落ちる。
しかも、初期レベルでも挑める、まさにチート級スポットだった。
「ただし……確か、あそこには“狂化コウモリ”がいたな。」
レベルこそ低いが、攻撃速度と行動パターンが異常なレアモンスターだ。
下手をすれば一撃でやられる。だが、あの動きは覚えている――プレイヤー時代に何度も戦った。
「あいつはすばやくフェイントをかけて仕掛けてくるが、攻撃パターンを見切ればいける。」
酔いが完全に覚めた。頭は冴えわたっている。鼓動は高鳴り、手のひらにはじんわりと汗がにじむ。
俺は、平和の森へ向かって走り出した。
***
まさか、初級の冒険者が行くような平和の森に裏ルートが隠されているなんて、誰も思わないだろう。
その日の夜、森の奥に着いた俺は、巨大な樹木の根元を探った。幹の裏に、人が一人通れるほどの穴が隠されている。普通に歩くだけでは絶対に気づけない死角だ。
「やっぱりあったな……裏ルート。」
土と苔の匂いに満ちた通路を這うように進んでいく。壁は湿っており、手を離すたびに冷たい水滴が滴り落ちる。やがて通路の先が広がり、洞窟の内部へと繋がった。
これが、通常のマップには表示されない“裏層”へのルートだ。
ゲームでは、ここに入ることで高火力玉のドロップが発生するようになっていた。
(変わってないな、この感覚……。視界の狭さ、空気の重さ、そしてあの緊張感。)
俺は深く息を吸い、剣の柄を強く握った。
奥へ進むと、ひときわ甲高い金切り声が洞窟に響き渡った。天井から逆さにぶら下がり、赤い瞳をぎらつかせる影がこちらを睨みつけている。
「出たな……狂化コウモリ。」
身の丈二メートルを超える、常識外れの巨大コウモリ。羽は裂けた布のようにぼろぼろだが、その一振りで人を叩き潰せるほどの力を秘めている。
鋭い牙をむき出しにし、よだれを垂らしながら奇声を上げる姿は、まさに狂気そのものだった。
普通のプレイヤーなら即逃げるレベルの強敵。
だが、俺は違う。
「ゲーム時代と同じ動きなら、やれる。」
狂化コウモリが翼を大きく広げ、一気に飛びかかってきた。洞窟の空気が一瞬でかき乱され、耳が裂けそうなほどの風圧が襲う。
「左だ!」
ギリギリで横にステップ回避。翼が岩壁を削り、石片が雨のように降り注ぐ。背後を取った俺は、即座に斬撃を叩き込んだ。
――キィン!
手応えはある。が、火力は足りない。傷は浅く、奴はさらに凶暴化している。
「今の俺の火力じゃ、倒しきれない…なら“ハメ技”だ!」
狂化コウモリは目が悪い。代わりに音で標的を捉えている。洞窟内には、特殊な毒ガスが溢れる区域がある。ゲーム時代、俺はそこへ誘導して討伐したのだ。
(ここまでの導線は覚えてる……岩肌の割れ目から風が漏れてるあたりがガスの発生源だ。)
俺は剣で壁を叩き、音を立てながら後退する。カン、カンと響く金属音に反応して、狂化コウモリが猛然と追いかけてきた。牙がすぐ背後まで迫る。汗が背中を伝い、視界が狭まる。
「よし、うまく誘い込んだ。」
ガスの区域に入った瞬間、コウモリの動きが目に見えて鈍くなる。羽ばたきが弱まり、奇声が掠れた。やがて飛行を維持できず、巨体が地面に叩きつけられる。
「……やった。」
確信した。俺は渾身の力でトドメの一撃を振り下ろした。骨を断つ手応えと共に、洞窟内が静寂に包まれる。
ピクリとも動かなくなったその死体の上に、小さな光が浮かんだ。
【火力玉:90】を手に入れました
「……来た。」
まさかの高火力玉。これがあれば、俺の火力は一気に100。ステータス10に火力玉90で、ようやくダンジョン攻略の最低火力ラインに到達する。
「これが、スタート地点だ。」
誰にも認められなかった落ちこぼれが、 “前世の最強”の知識を取り戻して、今、動き出す。
――次は、パーティを組んで、もう一度、ダンジョンに挑む番だ。
俺を追放したあいつらが、後悔する日も、遠くない。
→続く
次回:俺だけが知っている 「チート職業」を仲間にする!
読んでくださり、ありがとうございます。
良ければブックマークと評価をお願いします。励みになります。