第196話 王都奪還の作戦
◆奪還の作戦 ― 動き出す影
翌朝。
山の拠点の中にある広間に、ヒカルたちは集められた。
長机の上には、古びた羊皮紙に描かれたマウントグリーンの地図。
王城を中心に、周囲の町や道が細かく記されている。
「これが……奪還作戦の概要です」
ヴァネッサが指し棒を取り、地図をなぞった。
「城都には、現在リーサルの直属軍――“黒翼の軍団”が駐留しています。
兵数は正確には不明ですが、少なくとも五百。
その中にネフィロスとセラフィナがいると考えられます。」
「つまり、王城を取り戻すには――悪魔二体と、その軍勢を突破する必要がある」
ヒカルが腕を組み、目を細める。
「ええ。ただ、真正面からでは勝ち目はありません。
ですから、私たちは“地下水道”を使います。」
ヴァネッサは城の裏側を指し示した。
そこには、古代から続く“供水路”と呼ばれるトンネルが走っている。
「この道は、王族しか知らない秘密の通路です。
兄……いえ、かつての王が、非常時の退避用に造らせたものでした。」
「なるほどな」
シドが頷く。「外から攻めるより、城の心臓部に潜る方が早い。」
バレンが続ける。
「ただし、罠や結界が張られている可能性もある。
特に悪魔が支配した後なら、魔の気配が濃いだろう。」
「そのあたりは私が解除します」
ナオが静かに言った。
「……私の“天使の力”があれば、闇の結界は無効化できるはず。」
ヴァネッサが穏やかに微笑む。
「心強い言葉です。ありがとうございます。」
そのとき、ヒカルが地図を見つめながら言った。
「それと、もう一つ確認したい。リーサル本人の居場所だ。」
ヴァネッサは目を伏せた。
「……正確には、わかりません。
ただ、彼は王城の最上階――“聖堂”にいるという噂があります。
そこは、もとは神に祈りを捧げる場所でした。
ですが、今は“魔の門”が築かれているらしいのです。」
「やっぱりか……」ナオが低くつぶやく。
「各地に現れている“魔の門”ここにも作られているのね。」
「ええ。門は、この世界と“冥界”を繋げるもの。
放置すれば、さらに多くの悪魔が流れ込んでしまうでしょう。」
沈黙。
その場の誰もが、状況の重さを感じ取っていた。
ヒカルが口を開く。
「――つまり、目標は三つだ。
一つ、魔の門の破壊。
二つ、リーサル、ネフィロス、セラフィナの悪魔討伐。
三つ、五百の黒翼の軍団制圧」
彼の言葉に全員がうなずいた。
「それともう一つ」ヴァネッサが続ける。
「王都の民を救うこと。
まだ地下牢や避難区画に生き残っている人がいるかもしれません。
その救出もお願いしたいのです。」
「了解だ」ヒカルが静かに答える。
「命を、無駄にはしない。」
◆闇の城にて ― 動き出す悪魔
一方そのころ――。
マウントグリーン王城の玉座の間。
黒い霧が漂うその中央に、ネフィロスがひざまずいていた。
玉座には、黄金と漆黒の混ざった鎧を纏う男――悪魔王リーサル。
その瞳には底知れぬ光が宿っていた。
「……セラフィナがまだ戻らぬのか?」
低く、地の底から響くような声。
「ええ。ですが父上、彼女は無事です。
あの少女――クロエという者の力に興味を持ったようで。」
「ふむ、黄金の力の器か……」
リーサルの口元がわずかに歪む。
「人間の中にあれほど純粋な“光”が宿るとはな。
あの力、必ず我がものとする。」
ネフィロスが頭を垂れる。
「レジスタンスが動き出したとの報せもあります。
王妹ヴァネッサが生きていたようです。」
「構わぬ。いずれ絶望するだけだ。」
リーサルは立ち上がり、空を仰ぐように両手を広げた。
背後の“魔の門”が低く唸る。
「我が門は完成に近い。
あとは、この国を――完全な闇に沈めるだけだ。」
闇の波動が王城を包み、遠く山の隠れ里にまで届く。
クロエがその気配を感じ、思わず振り返った。
「……今、すごく嫌な感じがした。」
ヒカルが剣を握り直す。
「行くぞ。時間がない。リーサルの野望を止めるんだ。」
そして――奪還の戦いが、静かに幕を開けた。
読んでくださり、ありがとうございます。
良ければブックマークと評価をお願いします。励みになります。




