第195話 レジスタンスとヴァネッサ王女
◆廃都にて ― 王女ヴァネッサとの出会い
ネフィロスとの激闘のあと。
クロエたちは息を整えながら、崩れ果てた街を見渡していた。
――そこは、かつて繁栄を誇ったマウントグリーン王国の首都。
だが、今は瓦礫と死の静寂に支配された「廃都」だった。
「……人の気配が、ないね」
ナオがつぶやいた。風が吹き抜け、倒れた尖塔の破片を転がす。
「誰か生き残ってる人がいるかも。もう少し探してみよう」
ヒカルが前を歩く。
クロエも、胸の奥に重く沈む感情を押し殺しながら、ついていった。
通りを曲がった、そのときだった。
――影が動く。複数の足音。
ヒカルは瞬時に剣に手をかけた。
「待ってください!」
女の声だった。
十数名の集団が、壊れた石造りの建物の陰から現れる。
その先頭に立っていたのは、深紅のマントを羽織った一人の女性。
彼女はゆっくりと頭を下げた。
「初めまして。私はヴァネッサ。
――あなた方が、ネフィロスを退けたと聞きました。」
「俺たちの戦いを……見てたのか」
ヒカルが警戒を解かないまま言う。
「ええ。あなたたちがいなければ、今ごろこの廃都は跡形もなかったでしょう。
どうか――私たちと、戦っていただけませんか。
まずは話だけでも、聞いてください。」
その瞳には、絶望の中にわずかな希望の光が宿っていた。
ヒカルは一瞬だけ考え、うなずいた。
「……わかった。案内してくれ。」
◆隠された拠点 ― 山の中の街
彼らはヴァネッサに導かれ、王都の北にそびえる大山の麓へ向かった。
道の途中、巨岩の裂け目に隠された小さな通路があった。
それを抜けた先に――広大な空洞が広がっていた。
天井の高い洞窟。灯火が連なるように照らされ、
内部には木と石で作られた建物が整然と並んでいる。
そこは、まるで「もうひとつの街」だった。
「……すごい」クロエが息を呑む。
「本当に、山の中に街があるなんて……」
ヴァネッサが微笑む。
「この拠点は、マウントグリーンの建国より伝わる“避難都市”です。
有事の際に備えて築かれてきました。
でも――実際に使われたのは、今が初めてなのです。」
彼女の声には、誇りと痛みが混じっていた。
◆王女の告白
「まさか……兄が、あんなことになるとは思いませんでした。」
ヴァネッサは深く息をつくと、ヒカルたちに向き直った。
「実は、私の兄――この国の王が、殺されたのです。
そして……その姿を奪ったのがネフィロスでした。」
クロエたちは息を呑む。
ヴァネッサは続ける。
「彼は王に成り代わり、王宮を支配しました。
そして妹である“セラフィナ”という悪魔を伴い、
たった一日で、王都を廃墟に変えたのです。」
「セラフィナ……!」
クロエがその名をつぶやく。
「私は、わずかな兵と民を連れて、どうにか逃げ延びました。
そして、ここでレジスタンスを結成したのです。」
ヒカルが尋ねる。
「いつから、王は入れ替わっていたんだ?」
「おそらく……二か月ほど前です。
その頃から、兄の様子が変だった。
でも、まさか悪魔に“成り代わられていた”なんて……」
ヴァネッサは拳を握りしめた。
唇を噛み、悔しさを飲み込むように言う。
「この隠れ家は、まだ気づかれていません。
でも……時間の問題でしょう。」
◆ヒカルたちの決意
沈黙を破ったのはヒカルだった。
「俺たちは悪魔を討つために旅をしている。
リーサル、ネフィロス、セラフィナ――全員、ここで仕留める。」
ヴァネッサの瞳が揺れる。
「……本当に、そんなことが?」
「できるかどうかは、やってみなきゃわからない」
ヒカルが笑う。
「でも、やらなきゃ誰も救えないだろ。」
クロエも力強くうなずく。
「わたしも行く。マウントグリーンを取り戻そう。」
ヴァネッサは深く頭を下げた。
「ありがとうございます……。どうか、この国を……兄の魂を救ってください。」
◆山中の隠れ街
その後、ヴァネッサは拠点の内部を案内してくれた。
洞窟の中には、生活用の小屋や鍛冶場、簡易の農地まである。
水は山の湧き水から引かれ、灯りは魔導灯で保たれていた。
人々は少ないながらも、生きるために懸命に働いている。
「……ちゃんと、街みたいだ」
クロエが感心してつぶやく。
「ここでは皆、互いを支え合って生きています。
希望を捨てないこと――それだけが、私たちの武器です。」
ヴァネッサの言葉に、ヒカルたちは静かにうなずいた。
――そして翌日。
さらに詳しい話を聞くため、ヒカルたちは再びヴァネッサの元を訪ねることになる。
マウントグリーン奪還作戦の幕が、いま静かに上がろうとしていた。
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