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追放された雑魚剣士、実は最強ゲーム覇者でした。~記憶を取り戻した俺はチート知識で世界をぶっ壊す~  作者: 中瀬
第二章 悪魔討伐編

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第194話 双子の悪魔 兄ネフィロスと妹セラフィナ

――風が、灰を運んでいた。

 空は沈み、マウントグリーンの街はすでに“静寂”の支配下にあった。

 崩れた塔の影に、黒いマントを揺らす一人の男が立つ。


 ネフィロス。

 彼の眼差しは、焦点を結ばないまま、遠い地平を見つめていた。

 その瞳には怒りも喜びもなく、ただ“均衡”だけが宿っている。


 ――そこに、軽やかな足音が近づいた。

 鈴のような笑い声が、破滅の街に似つかわしくないほど甘やかに響く。


「やっぱり……ここにいたのね、兄様。」


 声の主は、漆黒のドレスを翻す少女――セラフィナ。

 白銀の髪が風に流れ、紅い瞳が揺れる。

 その姿は、まるで死神と聖女を同時に映したようだった。


 ネフィロスはゆっくりと振り向く。

 その動作には感情の起伏などない。ただ、淡々と――。


「……セラフィナ。君も、呼ばれたのか。」


「ええ。父様が“新しい秩序を築け”って。あなたも、同じでしょ?」

 セラフィナは笑みを浮かべた。だがその微笑には、どこか震えがあった。


「リーサル様の言葉は絶対。でも……私ね、兄様に会いたかったの。ずっと。」


 沈黙。

 瓦礫の上に舞い落ちた羽根が、音もなく砕けた。


 ネフィロスは目を伏せた。

 風が彼の髪をかすめ、古い記憶の断片がよぎる。

 ――あの日、創られた瞬間。黄金の陣の中で、目を開けたセラフィナが、最初に口にした言葉。


『兄様。わたしたち、これからどうすればいいの?』


 ネフィロスは、その問いに答えられなかった。

 今も、答えを持っていない。


「……セラフィナ。お前は、まだ“父”を信じているのか。」


「信じてるよ。だって、父様がいなきゃ、私たちは存在してない。」

 その言葉はまっすぐだった。けれど、ほんの少し滲んでいた。


「でも――」

 セラフィナの声が震えた。

「あなたがいない世界なんて、私、嫌なの。」


 ネフィロスの胸が、かすかに鳴った。

 それは、鼓動だった。

 人間をやめて久しい彼の中に、残滓のように響く命の音。


 彼は言葉を探したが、何も出てこない。

 ただ、静かに、彼女を見つめるだけ。


「……感情は、流れを濁らせる。」

「ううん、兄様。感情こそが流れを生むのよ。」


 セラフィナは一歩、近づいた。

 距離は、もう息が触れるほど。

 その瞳に映る彼の顔は、まるで“人間”のように見えた。


「あなた、変わったわ。昔の兄様はこんな目をしてなかった。

 ……まるで、人間みたい。」


 ネフィロスは小さく目を閉じた。

 心の奥で何かが疼く――それが痛みなのか、哀しみなのか、分からない。


「セラフィナ。俺たちは、もはや人ではない。

 愛も、憎しみも、ただの揺らぎに過ぎん。」


「でも、揺らぎがあるなら――」

 セラフィナの指が、彼の頬に触れた。冷たい指先が、震えていた。

「――まだ、“戻れる”かもしれないじゃない。」


 その言葉に、ネフィロスの瞳がわずかに揺れた。

 彼の中で、何かが軋み、崩れていく音がする。


 だが、その瞬間――

 地の底から、重く禍々しい声が響いた。


《戻る必要などない。お前たちは完成している。》


 リーサルの声だった。

 大地がうねり、空が黒く染まる。


 セラフィナの手が、ネフィロスの頬から離れる。

 彼女の瞳から、光が失われていった。


 ネフィロスは静かに呟いた。

「……父様の干渉か。やはり、均衡は乱れ始めている。」


 風が再び吹く。

 彼の表情は無に戻る――しかし、胸の奥で微かな熱が消えずに残っていた。


 ――それが、ネフィロスの“揺らぎ”の始まりだった。

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