第190話 レオンの夢
訓練を終えたクロエは、異空間の草原に一人立っていた。
夜風が頬を撫で、遠くで虫の音がかすかに響く。
戦いの熱がまだ体に残っているのに、心は妙に静かだった。
――夜の風って、こんなに気持ちよかったっけ。
そう思った瞬間。
「やぁ」
穏やかな、けれどどこか底の読めない声が背後からした。
クロエは振り返る。
そこに立っていたのは――あの“廃教会”でイグナトスを精神干渉していた、あの青年だった。
月光を浴びたその姿は、まるで彫刻のように整っていた。
冷たいのに、どこか哀しげな微笑みを浮かべている。
「……あなた、一体何者なの!?」
クロエの声が自然と強くなる。
「名前は、廃教会で聞いたはずだろう?」
青年は穏やかに微笑んだ。
「――レオン、ってね。」
「……やっぱり。
あのとき、私があの場に潜んでいたこと、気づいていたのね。」
レオンは肩をすくめた。
「君の気配は、黄金の光みたいに目立ってたからね。」
「あなたも……力を使えるの?」
「力っていうのは――」
レオンはゆっくりと右手を上げ、指先に淡い光を灯した。
「君たちが“黄金の力”と呼んでいるあれのことかい?」
クロエは即座に集中した。
力の制御を学んでから、サーチの精度は飛躍的に上がっている。
相手の持つ“力の波”を感じ取ることができるようになっていた。
……だけど、その結果に息を呑んだ。
(な、なにこれ……!?)
彼から感じる力は、自分と同質。
でも、比べものにならないほど深く――広い。
クロエができることは、すべてできる。
それどころか、未知の領域がいくつも重なっていた。
(これ……神様クラス……?)
驚愕と戦慄が背筋を走る。
「ふふっ」
レオンが目を細める。
「質問の答えは……受け取ってもらえたかな?」
その瞬間、クロエのサーチがぷつりと途切れた。
まるで世界が遮断されたように、相手の存在を感じ取れなくなる。
「……!? あなた……わざと私に読み取らせたのね!」
クロエは警戒を強める。
「あなたの目的は何!? どうして私に会いに来たの!?」
レオンは微笑んだまま、夜風に髪を揺らす。
「じきに、わかるさ。」
その言葉と同時に、彼の姿は光の粒となって消えた。
――気がつくと、クロエはベッドの上にいた。
宿舎の天井。
静かな夜。
心臓の鼓動が、まだ速い。
「……夢?」
けれど、手のひらには微かに残っていた。
あの、黄金と黒が混じったような、不思議な光の感触が。
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