第182話 オーブ
翌朝。
朝靄が差し込む聖樹の間で、クロエとリディアはエリナのもとを訪れていた。
「お願いがあるの」
リディアが手を腰に当て、少し得意げな表情で言う。
「大きな爆発があっても大丈夫な、ひっろーい空間を作ってほしいの。
あと、どんな爆発でも安全な場所、ちゃんと確保しておいてね!」
エリナはきょとんとしたが、すぐに微笑んだ。
「はい。では……準備しますね」
クロエはそのやり取りを見ながら首をかしげた。
「リディアちゃん、なんでそんなお願いを?」
「ふふ、見てて。今日の訓練はちょっと特別なんだから」
エリナは祭壇の前に立ち、聖樹にそっと手をかざす。
やがて聖樹が柔らかく光り、空気が澄んでいく。
風が巻き、次の瞬間、二人の姿は光に包まれ――異空間へと転送された。
そこは一面に広がる大草原だった。
遠くまで見渡せる地平線、青く輝く空、そして風に揺れる草花。
まるで本物の自然世界のようだが、足元の空気はどこか幻想的に透き通っている。
クロエがあたりを見回すと、少し離れた場所に青く光る草地の一角があった。
その中央に、一通の手紙が置かれている。
開くと、丸い文字でこう書かれていた。
「ここが安全地帯です。どんな衝撃も届かないので安心してね。
――エリナより」
「へぇ、ちゃんと安全地帯も作ってくれたんだ」
リディアが満足そうに頷く。
「じゃ、はじめるよ!」
「はい!って……なにするの?」とクロエ。
リディアは腰のポーチから一冊のノートを取り出し、さらさらと書き込む。
「まずは、あんたの今の能力をおさらいね。ちゃんと整理しておくの」
書き終えると、ノートをクロエに見せた。そこには――
①瞬間移動 ※イメージできる場所にしか行けない。発動前に集中が必要
②精神干渉 ※軽い幻覚、幻聴、誘導程度。強いものは制御できない
③仮想銃 ※出力1~3まで。あまりに強いものは制御できない
④サーチ ※視覚に頼らず、視覚効果を得られる感知能力。映像は不鮮明
⑤物体・思考転送 ※物体や思考を任意の座標に転送する
「……まぁ、十分すごいけどね。でも、あんた、精度とか力の制御がイマイチなのよ。
強すぎたり、暴発したり。つまり、力を**“細かく使う”**練習が必要なの」
「はへぇぇぇぇ~」
クロエが感心したように声を漏らす。
「リディアちゃんって本当に頭いいっていうか、何でも知ってるのね!」
リディアは少し頬を赤らめて目をそらした。
「わ、わたしっていうか……おじいちゃんがね、昔、有名な武闘家だったの。
力の制御とか、精神の集中とか、その教えを受け継いでるのよ。
まぁ万能らしいから、クロエちゃんにもきっと役立つと思う。ダメ元でやってみよ!」
「うん!」
「じゃあ、まず集中して。――あ、体に力入れちゃダメだよ」
「は、はい!」
「体の中心に、小さな“力の源”――光るボールをイメージして。
それがクロエちゃんの根源的な力の塊、“オーブ”。」
クロエは目を閉じ、深呼吸をする。
心の中で静かに光を描くと、彼女の身体がふわりと黄金色に輝きはじめた。
「す、すごい……!でも、ここからが本番だよ!」
リディアの声が響く。
「弱めるときは、ボールの中の光を小さく、小さくしていくの。
息を吐くように、ゆっくり……」
クロエはそのイメージを思い浮かべる。
しかし光は小さくならない。むしろ輝きが強くなっていく。
「ダメだね、まだ小さくできてない。」
リディアが続ける。
「私、不思議なんだけど、相手の“オーブ”を感じ取れる体質なの。今、クロエちゃんの力、すごく明るいわ。小さくなってない。」
「ええーどうしたらいいのー!?」
「焦らないで。力を抜いて……そう、光を“包む”ようにイメージして。
小さく、もっと小さく……」
リディアの声が風に乗る。
クロエの胸の奥の光が、ふっと小さく脈打ち――やがて、少しずつ収縮を始めた。
「……すごい!できてる!クロエちゃん、できてるよ!」
「え!?ほんと!?」
クロエが目を開いた瞬間、集中が途切れ、オーブは再び膨れ上がった。
「うんうん、戻っちゃったけどね」
リディアが笑いながら肩をすくめる。
「でも、今の感覚を覚えておいて。これを毎日練習ね。
小さくする練習は、逆に大きく出すときにも役に立つから。超重要!」
「わかった!」
クロエは拳をぎゅっと握り、再び目を閉じる。
黄金の光が静かにゆらめき、草原の風が心地よく吹き抜けていった。
その光景を見つめながら、リディアはそっと微笑んだ。
「……きっと、あんたはもっと強くなる。誰よりも、優しくね」
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