第175話 おしおきの一撃
クロエが二階の部屋に足を踏み入れた瞬間、低い声が響いた。
「誰だ?」
重い靴音とともに、盗賊団のボスが姿を現す。
厚い胸板、鋭い目つき。背後には二人の部下が立っている。
クロエは一歩も引かず、静かに言った。
「あなたがボスね。盗んだもの、返してもらうわ。」
「ガキが……」
ボスはゆっくりと近づく。
その目に、侮蔑と怒りの光が宿っていた。
そして――
太い腕がクロエの首を掴み上げた。
「ぐっ……!」
「話すことも、息をすることもできんだろう。
さあ、何しに来たのか正直に言え!」
クロエの足が宙に浮き、視界がにじむ。
喉が締まり、息が詰まり、世界が遠のいていく。
――やだ。
――こんな……とこで。
クロエの体がだらりと力を失い、意識を失ったように見えた。
「はっ、拍子抜けだな。口ほどにも――」
ボスが鼻で笑い、掴んだままのクロエを見下ろす。
だが、そのときだった。
部下の一人が叫んだ。
「お、親分! そ、それ……!」
ボスが視線を向けると――
自分の手の中にいる“クロエ”の姿が、いつのまにか部下の男の姿に変わっていた。
「な……にっ!?」
驚きに目を見開くボス。
慌てて振り返ると、部屋の隅に“もうひとりのクロエ”が立っていた。
「こ、これはどういう……!」
「何をしたぁぁっ!!」
怒鳴りながらボスはそのクロエに飛びかかり、再び首を絞める。
「お前の幻術か!? この化け物め!」
クロエは苦しそうに目を閉じ――そのまま、動かなくなった。
「……ふん、これで終わりだ。」
だが、次の瞬間。
その“クロエ”もまた、部下の姿に変わっていた。
「な……っ!? 二人とも……幻か……!」
額から汗が落ちる。
ボスの顔が青ざめ、唇が震えた。
「せ、精神干渉……? ば……ばけものめ……!」
そのとき、柔らかな声が背後から響いた。
「どっちも死んでないよ。」
振り返ると、そこに本物のクロエが立っていた。
金色の光が髪をゆらめかせ、淡く輝いている。
「クロエ、そういうのイヤだから。
ねぇ、あんたボスでしょ? 降参して、保安局に出頭しなさい。」
クロエは真っ直ぐに言った。
その目に怒りも憎しみもなく、ただ静かな意志だけがあった。
だが、ボスの男は鼻で笑った。
「ふん……所詮、ガキの戯言だ。」
そして、振り返りざま――
「裏切り者はいらん」と呟き、二人の部下を銃で撃ち抜いた。
乾いた銃声。
血の匂い。
クロエの身体が震える。
「そ、そんな……なんてこと、するの……!」
脳内にリディアの声が響いた。
『クロエ! 落ち着いて! もう――とっておきの技、使っちゃっていいから!』
クロエは息を整え、目を閉じた。
そして、顔を上げて静かに言った。
「……そうだね。おしおきだね。」
クロエは右手を前に突き出し、指を銃の形にする。
まるで子供の遊びのように。
「……何のマネだ?」
ボスは失笑した。
「笑わせるな。お前がそんなもので――」
「出力1」
クロエの指先がかすかに光る。
「――バンッ!」
閃光。
轟音。
爆風のような衝撃が部屋を満たし、ボスの身体が宙を舞った。
窓ガラスを突き破り、外の石畳へ叩きつけられる。
クロエの髪が風で揺れ、静寂が戻る。
『出力1であの威力……クロエ、もうちょっと調整したほうがいいね』
リディアの声が少し呆れたように響く。
「う、うん……気をつける……」
クロエは小さく答え、手をおろした。
彼女の指先には、まだ淡く黄金の光が残っていた。
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