第174話 能力テスト
二人の地道な練習は続いた。
クロエは、思いついたスキルの応用を次々と試し、リディアはそのたびに理屈を整理してあげた。
「情報操作」の精度は上がり、「力加減」も少しずつ安定してきたころ――リディアはふいに真剣な表情になった。
「よし、次のステップに行きましょう。ミッションよ」
「ミッション?」
「そう。実戦でクロエの力を試すの」
リディアは口元をつり上げ、ひとつの地図を広げた。
「いい? これからあんたには、グラス王国の裏組織――盗賊団のアジトに潜入してもらう。
盗まれた品を回収して、持ち主に返すところまでがミッション。
潜入、バトル、回収、返還――全部、あんたのスキルでやってもらうわ」
「……わ、わたしひとりで?」
「安心しなさい。危なくなったら、ちゃんとアタシが援護してあげる。」
クロエは小さく息を吸い、そして力強くうなずいた。
「わかった!やってみる!」
クロエはリディアの手を握り、目を閉じた。
小さく息を整えて――ひとこと。
「居場所を書き換える」
光の粒がふたりを包み、次の瞬間、彼女たちはアジトの前に立っていた。
空気がひんやりとして、森の匂いが濃い。
木々の奥に潜む、古びた石造りの館――そこが盗賊団のアジトだった。
「すごい!クロエ、いきなり良い感じじゃん!」
リディアが驚きの声を上げた。
「じゃあ、アタシは後ろから見てるから。あとは、クロエの番ね!」
クロエは緊張の息を吐き、アジトの門番を見た。
二人の男が見張りに立っている。
その瞬間、クロエの瞳が金に輝いた。
「ちょっとトイレ行ってくる」
一人が立ち去る。
残ったもう一人も、しばらくして腕時計を見て言った。
「交代の時間だな」
そしてその場を離れた。
――門番、ゼロ。
リディアが後方から手を叩いた。
「精神干渉、完璧!順調よ、クロエ!」
クロエは門前に瞬間移動し、手をかざした。
ドアの鍵穴が淡く光り――消える。
カチリと音を立て、扉が開いた。
「ロックの形状を変えたのね」
リディアが目を細めた。
「さすが、創造系のスキル」
クロエは頷き、静かに内部へ潜入した。
中はがらんとしていて、薄暗い。
彼女は立ち止まり、目を閉じてつぶやく。
「サーチ」
脳裏に光の粒が走り、断片的な映像が浮かんだ。
最初は視界が通路を進むように、やがて俯瞰に切り替わる。
2階建て、地下1階の構造。
地下に盗品があり、2階にはボスと部下2人がいる――談笑しているようだ。
クロエはリディアの脳内に信号を送った。
リディアの視界が、クロエの見ている光景と重なる。
「順調ね、クロエ。このまま進めて」
リディアの声が脳内に響く。
クロエは静かに階段を降り、地下へ向かった。
そこに積まれた箱を確認すると、黄金の粒が彼女の掌からこぼれる。
空間の構造が書き換わり、盗品がふっと消えた。
同時に――王都の宿舎、クロエとリディアの部屋の中。
そこに盗品の山が転移していた。
鍵をかけているから、誰にも気づかれない。
「……よし、これで盗品は確保っと」
クロエは小さく笑い、リディアに伝えた。
「じゃあ、残るは――バトルだね」
クロエは2階へと音もなく上がった。
そのとき、革靴の音が響き、部屋の奥から声がした。
「誰だ?」
振り向いたのは、筋肉質な男――盗賊団のボスだった。
鋭い目が、黄金の輝きを宿した少女を捉えた。
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