第170話 紅い月の会
翌朝。
柔らかな陽光がエルフの森に差し込む中、ヒカルたちはエルナリアの執務室に集められていた。
重厚な木の机の上には、古びた文書と地図が広げられている。
その中央に紅い印が描かれ、円のような模様で囲まれていた。
「――“紅い月の会”について、知りたいのですね。」
エルナリアの澄んだ声が、静かな室内に響く。
「はい。」とヒカル。
エルナリアは軽くうなずき、深呼吸をして語り始めた。
「紅い月の会は、昔からグラス王国で暗躍していた小さな集団です。
もともとは“夜の月に祈る者たち”と呼ばれる、民間の信仰団体のひとつにすぎませんでした。
目立った事件もなく、我々も放置していましたが――最近、妙な報告が入ってきたのです。」
ヒカルたちは、息をのんで聞き入る。
「彼らに接触する“奇妙な男”を見た、という証言が複数あったのです。
以降、彼らの動きは急に活発になり、黒衣をまとい始めました。」
「奇妙な男……?」とナオがつぶやく。
エルナリアは小さくうなずいた。
「はい。人間離れした気配を纏っていたと。名を知る者はいませんが、まるで“人間ではない何か”のようだったと……」
ヒカルの表情が険しくなる。
「その男、気になるな。」
続けて言う。
「あと……デザート王国の時と同じように、地下に“魔の門”を作って出入りしているんじゃないか?
ルシフェルやセリーナもそこから出入りしてたとしたら、塞ぐ必要があるな。」
その言葉に、場の空気が重くなる。
バレンが肩の上にいるハムスターをにらんだ。
「な、なによ……そんな目で見ないでよ!」
小さな手をばたつかせ、チャイの肩の陰に隠れようとするセリーナ。
ヒカルは真顔のまま、クロエへ向き直る。
「クロエ。前に言ってただろ。いろんな技を試したいって。
黄金の力は強すぎて控えさせてたけど……セリーナ相手なら、許可する。」
「ひぃぃぃぃっ!!」
セリーナが跳ね上がるように悲鳴をあげた。
「言います言います! ぜんぶ言います! はい! あたし、グラス王国の地下
の魔の門から出入りしてました!!」
ヒカルがため息をつき、手を上げてクロエを制した。
「……やっぱ実験は中止だ。」
セリーナが、ほっと胸を撫でおろす。
そこへシドが杖をつきながら言った。
「ならば、魔の門まで案内させよう。放置しておくのは危険じゃ。」
セリーナが小さく頷き、か細い声で「……わかりました」と返事をする。
ヒカルがすぐに指示を出した。
「魔の門へは、バレンとナオで行ってくれ。門を破壊してほしい。
二人なら戦闘になっても対応できるだろう。シドは安全な場所でクロエたちを守ってくれ。」
そして、ヒカルはエルナリアの方を向く。
「俺は、エルナリアさんと“紅い月の会”について調べます。
その奇妙な男が、どんな存在なのか――確認しておきたい。」
エルナリアは静かに立ち上がり、マントの裾を翻した。
「……わかりました。彼らの拠点となっている“教会”があります。
案内いたしましょう、ヒカルさん。」
ヒカルは小さくうなずいた。
不穏な気配が、再び王都の地下から立ちのぼる気がした。
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