第169話 王都凱旋
陽が高く昇り、グラス王国の王都は、久方ぶりの歓声に包まれていた。
城門の前には人々が列をなし、色とりどりの花びらが風に舞う。
「すごい……これ、全部、わたしたちのため……?」
クロエが驚いたように呟く。
リディアが腕を組みながら笑う。「ま、英雄ってやつよ」
ナオは肩をすくめ、「信じられないわ。昨日まで指名手配されてたのにね」
ヒカルは苦笑しながら群衆に手を振った。
彼の隣では、セリーヌとエルナリアが正装のまま馬車に並んで座っていた。
エルナリアの銀髪は朝の光を反射して輝き、まるで聖樹の化身のようだった。
セリーヌもまた、かつての威厳を取り戻し、背筋を伸ばしている。
「あなたたちは、王国を救った英雄。胸を張って」
セリーヌの言葉に、ヒカルは少しだけ表情を緩めた。
だが――その瞳には、まだどこか“戦場”の光が残っている。
***
王城の大広間。
金の装飾が施された長い通路の先、玉座には王《ルクレイル三世》が座していた。
年老いたが、その眼差しは王のそれ。まっすぐにヒカルたちを見据えている。
「面を上げよ、勇者たち」
荘厳な声が響いた。
ヒカル、クロエ、リディア、ナオ、バレン、シド――一同が膝をつき、頭を上げる。
「我が国の災厄を祓い、エルナリア、セリーヌの両名を救い出したと聞く。
そなたらの勇気、真に称賛に値する」
王はゆっくりと立ち上がり、白銀の杖を掲げた。
「この勲章は、グラス王国が誇る最高の栄誉――“黎明の章”である。
ヒカル、そしてその仲間たちに授けよう」
臣下たちがざわめき、やがて歓声が広がる。
ヒカルは膝をついたまま、静かに頭を下げた。
「……ありがとうございます、陛下」
その後ろで、クロエは小声で「すごい……」と感嘆を漏らす。
リディアが「お辞儀、しっかり」と肘でつつくと、クロエは慌てて姿勢を正した。
王は微笑み、続けた。
「しかし、まだ闇は払われてはおらぬ。
黒衣の者たちは王都を離れ、東の荒野に逃げ延びたとの報せがある。
彼らの背後には、さらに深い影が潜んでいるやもしれぬ」
ヒカルの眉がぴくりと動く。
――黒衣の集団の背後。
かつて彼が“ゲームの時代”で見た、最終イベントの影。
それが現実に現れようとしているのかもしれない。
***
謁見を終え、一行は王城の庭園に案内された。
春の花が咲き誇る中、エルナリアがそっと語りかける。
「この国はようやく息を吹き返します。けれど……まだ不穏な動きがあるのです」
「不穏?」とナオ。
「はい。『紅い月の会』という密教組織が、王城の地下で何かを――」
「……また、何かが起こるのね」
リディアが呟く。
ヒカルは剣の柄に手を添え、ゆっくりと答えた。
「戦いは終わっちゃいない。
でも……俺たちなら、次も勝てる。な、クロエ」
クロエは一瞬きょとんとしたあと、ふわりと笑った。
「うん。だって、ヒカルがいるもん」
その笑顔に、ヒカルは心の奥で小さな痛みを覚えた。
――理由はわからない。
ただ、懐かしい。とても、大切な人を見ている気がした。
王都に新しい風が吹く。
英雄たちの凱旋は、やがて次なる戦い――
“紅い月の会”との暗闘へと、静かに続いていくのだった。
読んでくださり、ありがとうございます。
良ければブックマークと評価をお願いします。励みになります。




