第168話 森の朝
夜明け前、森の静寂を割るように鳥のさえずりが響いた。
ヒカルたちが見守る中、二人の女性――エルナリアとセリーヌがゆっくりと目を開けた。
「……ここは?」
エルナリアが身を起こすと、柔らかな木漏れ日が頬を照らした。
ラルドが駆け寄る。「エルナリア様……!」
涙が光る。長い時を経ても変わらぬ忠誠のまなざしだった。
「ラルド……あなたが、守ってくれたのね」
「いえ、わしだけではありません。彼らが……」
そう言ってラルドが振り向くと、ヒカル、クロエ、リディア、そして仲間たちが立っていた。
「助けてくれたのね。本当に、ありがとう」
エルナリアは深く頭を下げる。
その横で、セリーヌも目を開いた。
「……エルネス?」
「母さん!」
涙ながらに抱きつく息子を、セリーヌは強く抱きしめた。
――親と子、再会の抱擁がそこにあった。
エリナもまた母エルナリアの胸に顔を埋め、静かに泣いていた。
それを見守るクロエとリディアも、そっと目を潤ませる。
「……よかった、ほんとによかったね」とクロエ。
リディアは微笑みながら肩をすくめた。「まったく、あんたの力は何でもありね」
***
エルナリアは姿勢を正し、皆に語りかけた。
「私はグラス王国の執政官。エルフの代表として、王に仕えております」
「そして、私は王国保安局の捜査官、セリーヌ……いえ、“でした”と言うべきかしら」
セリーヌは自嘲気味に笑う。
ヒカルが尋ねる。「あなたたちは、この国の……」
「そう。わたしたちは、国の中枢を担っていたの。
けれど、あの黒衣の集団――悪魔を崇拝する連中が王都に入り込み、
国の意志さえ操ろうとしていた」
「やつらを追い出せば、グラス王国は正常に戻るはずだな」バレンが腕を組んだ。
「ええ。あなたたちのおかげで、それが叶うでしょう」
エルナリアの声は清らかで、森に光が差し込むようだった。
ラルドがうなずき、「ようやく、森と王国の絆が戻る……」と呟く。
エルネスも隣で、「母さんも、おばあちゃんも、もう安全だね」と笑顔を見せた。
クロエとリディアが頷き、チャイがぴょんと跳ねた。
「みんな、よかったね!」
「ほんと、一件落着ね!」とナオが両手を腰に当てて言う。
「……それ、わしが言いたかったんじゃが」シドがむくれ、
その場はどっと笑いに包まれた。
***
その時だった。
「きゃああああああああああああああああああああああっ!!!」
甲高い悲鳴が響く。
全員の視線が一点に集まる――焚き火のそばの、小さなカゴの中。
中でハムスターが飛び跳ねていた。
「……あ」クロエがぽつりと呟く。
「そういえば、セリーナさん、まだハムスターのままだったね」
「お、おまえ……!」ヒカルが額を押さえる。
「えへへ、でも大丈夫! おしゃべりだけはできるようにしといた!」
「しゃ、しゃべれるように……?」リディアが眉をひそめる。
「そういうの、自由自在にできるのか?」ヒカルが尋ねる。
「そういうわけじゃないんだけど……昨日はなんか、できた!」
クロエはケロリと笑ったが、
――昨日、夢で聞いた“リュミナ”の言葉。
『ヒカルを信じなさい』
胸の奥でその声が再び反響する。
あの夢はなんだったのか…
「う、うう……な、なんなのよこの体はぁぁぁ……」
ハムスターのセリーナが震えていた。
「こいつ、どうする?」とバレン。
「もうこうなっちゃ、おしまいだな」
チャイがぴょこんと手をあげた。
「チャイ、お世話する! かわいいハムスター!」
「いや、危険だから、やっぱり潰そう」ヒカルが真顔で言う。
「ぎゃああああああああ!! この人こわいぃぃ!!!」
セリーナ(ハムスター)は慌ててチャイの背にしがみついた。
「ちょっと待って」リディアが制した。
「こいつ、悪魔のこと詳しいんでしょ? 情報源として使えるかも」
「なんでもいいます!! はい、なんでもいいますからぁぁ!!!」
必死に命乞いするハムスター。
バレンが苦笑して腕を組む。「……まあ、使えるなら、しばらくは生かしとくか」
「決まりね」ナオがまとめ、場の空気が落ち着いた。
***
そこへ、エルナリアとセリーヌが歩み寄る。
「改めて、あなたたちに感謝します。王様に、ぜひ紹介させてください」
「国を挙げて歓迎するとのことですわ。あなたたちはこの国の英雄よ」
ヒカルたちは思わず顔を見合わせた。
かつて王都で“指名手配犯”とされた彼らが――
今や“国の英雄”として迎えられようとしている。
夜明けの光が森を照らす。
新しい物語の幕開けを告げるように、聖樹の葉が静かに揺れた。
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