第164話 エルナリア救出・ルシフェル戦
夜の森は、深い青の帳に沈んでいた。
風は凪ぎ、木々の葉がかすかに揺れる音だけが響く。
グラス王国の聖域――“エルフの森”のさらに奥、誰も近づけぬ結界の先へ。
ヒカルたちは慎重に足を進めていた。
「……この先が、エルナリア様が囚われている場所だ」
ラルドが低い声で言った。
彼の指差す方には、朽ちた遺跡のような建物が見える。
白い石壁は半ば崩れ、蔦が絡みついていた。だが、どこか禍々しい気配を放っている。
「なんか、空気が違う……」
リディアが身震いしながら呟く。
風が通らない。音も、匂いも、すべてが止まったようだった。
「ルシフェルがいるな……」
ヒカルが長剣の柄に手をかける。
その声は静かだったが、誰よりも鋭く、緊張に満ちていた。
「エルナリア様は、あの建物の地下に幽閉されています」
ラルドが続けた。
「……だが、その前に、ルシフェルが立ち塞がるでしょう。彼は、森の魔力を吸収し、いまやかつての比ではありません」
「ふふ、だったら燃やして取り返すだけよ」
リディアが小さく笑い、双剣を抜く。
クロエは少し心配そうに見つめながらも、その手には黄金の光が宿り始めていた。
「……ヒカル」
クロエが囁く。
「私、また“創造”で皆を守れるかもしれない。誰も死なせたくないの」
「頼もしいな。クロエがいれば、絶対に勝てる」
ヒカルは笑みを浮かべるが、目は冷静だった。
“創造の力”――彼女の中に眠る、神にも等しい権能。
それを自覚していないがゆえに、彼女は恐ろしいほど純粋だった。
やがて、彼らは遺跡の中に足を踏み入れる。
――その瞬間、世界が歪んだ。
冷たい風。血の匂い。空間を切り裂くような魔力の波動。
「来たか、人間ども……」
奥から現れたのは、黒い翼を背負う美貌の女――ルシフェル。
その笑みは、神を嘲る悪魔のものだった。
「またお前か。今度こそ、終わらせる」
ヒカルが剣を抜く。白銀の光が走った。
「終わらせる? この私を? ふふ……面白い。
前より強くなっているようね。だけどこの“祝福の地”では私が神だ」
ルシフェルが腕を広げた瞬間、森全体がうねる。
根が暴れ、蔦が蛇のように襲いかかる。
ヒカルが剣で払い、リディアが風の魔法で防ぐ。
その隙にクロエが叫ぶ。
「ヒカル、上!!」
黒い闇の槍が天井から降り注いだ。
ヒカルは回避するが、リディアの足元に闇が広がる。
ルシフェルが指を弾いた。
「無駄だ。聖樹の魔力はすでに我がもの。
“原初の血”など不要――だが、娘の方は使えるな。あの“エリナ”とやらは」
「……やっぱり、エリナを狙ってるのね」
クロエの声が怒りに震える。
黄金の光が強くなり、空気が熱を帯びる。
「もう、やめて! 森も、エルフも、利用しないで!」
その叫びとともに、クロエの両手から光が広がった。
光は花のように広がり、黒い蔦を焼き尽くす。
ルシフェルの目が見開かれる。
「これは……黄金の権能!? まさか、そんなはず――」
「黙れ!」
ヒカルが叫び、突進する。
剣と闇の翼がぶつかり、凄まじい衝撃が遺跡を揺らした。
シドの結界がヒカルを守り、リディアが風の刃を投げつける。
「クロエ、いまだ!」
「うんっ!」
クロエの手から、眩い光が放たれる。
「あなたに誰も攻撃させないわ!」
まるで世界の“コード”そのものを書き換えるように、空間がひび割れた。
ひび割れた隙間から、金の鎖がスルスルと現れる。
そして、ルシフェルの身体に金の鎖が絡みつき、動きを封じる。
「クロエの創造……!」
ヒカルが叫びながら、剣を振り抜く。
白銀の光がルシフェルを貫いた。
「あ……ぅう……だが、覚えていなさい……“セリーナ”は……もう……」
その声は途中で途切れ、闇の塵となって消えた。
――戦いが終わった。
重い沈黙のあと、クロエがその場に膝をつく。
「……助かった……みんな、無事……?」
「ああ。すげえよ、クロエ」
ヒカルが微笑む。
「お前がいなかったら、勝てなかった」
ヒカルは思っていた。
自分の剣は、最後のダメ押しの一撃。
クロエの黄金の鎖は、ルシフェルを拘束するにとどまらず、
その力をすべて奪い取っていた…クロエの力が尋常ではない。
ラルドが聖域の奥を指さす。
「エルナリア様は、奥の祭壇に……!」
彼らは急ぎ、通路を駆け抜けた。
その先で、エルナリアは封印の鎖に囚われていた。
白髪のエルフ――その顔は、確かにエリナに似ていた。
「うぅ...助けて..ください……娘を..」
微かな声が、祈るように響いた。
ヒカルたちは、次なる戦い――エリナ救出へと向かう決意を固めるのだった。
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