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追放された雑魚剣士、実は最強ゲーム覇者でした。~記憶を取り戻した俺はチート知識で世界をぶっ壊す~  作者: 中瀬
第二章 悪魔討伐編

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第163話 王都潜入・セリーヌ救出

夜明け前の薄闇。

 グラス王国の王都を囲む白壁は、夜露をまとい、月明かりを鈍く反射していた。

 人々の眠る時間。だが、王都の中枢――保安局の塔だけは、いまだ明かりを落とすことがなかった。


 その影を縫うように、四つの影が動く。

 バレン、ナオ、チャイ、そしてエルネス。

 セリーヌ救出班――彼らの任務はただ一つ。

 悪魔セリーナの洗脳から、エルネスの母を取り戻すこと。


「……あそこだ。保安局本庁塔。母さんはあの地下に閉じ込められているはずだ。」

 エルネスの指先が震えていた。

 塔は黒曜石のような素材で造られており、月明かりを吸い込むように重苦しく沈黙している。

 入口には、二重警備の衛兵。昼より少ないとはいえ、油断はできない。


 バレンは手の甲に手を当てて低く呟く。

「ここから先は“静音障壁”を使う。龍術だ。」


 ナオは頷くと、バレンの様子を見た。

 バレンから音の揺らぎが見えた気がした。そして、音も匂いも吸い込むように消えていく。

 まるで“空間そのもの”が静寂を強制されるようだった。


 チャイが感嘆の声をあげる。

「す、すごい…これが龍術」


「感想は後。今は慎重に。」

 バレンが小声でたしなめると、ナオが微笑んだ。

「ふふ、でも上手くいってるみたいね。」


 彼らは壁を伝って進む。

 裏手の小通路――関係者しか使わない搬入口の鉄扉。

 バレンが掌をかざすと、近くの草が伸びて鍵の代わりになり、鍵穴に流れ込む。

 わずかな金属音。

 錠が音もなく外れた。


草鍵解錠グラスキー・アンロック完了。」


 チャイが目をキラキラさせ、大きな声を出したそうにしている。

 しかし、バレンの鋭い視線に制され、口を噤んだ。


 内部はひんやりとした石造りの廊下。

 冷気とともに、鉄と薬品の匂いが漂う。

 ――まさに、尋問と洗脳のための施設。


「母さんは……この下の階層にいる。」

 エルネスが指し示したのは、階段の奥。

 そこには、黒衣の保安局員が二人、通路を見張っていた。


 バレンは腰の剣を抜き、呼吸を整える。

「黒衣の集団。セリーナの部下だな。殺さずに気絶させる。いくぞ。」


 瞬間、バレンの身体が闇を裂いた。

 足音すら聞こえぬ一閃。

 衛兵の首筋を平手で打ち抜き、もう一人の腹を軽く叩くように突く。

 どちらも音もなく崩れ落ちた。


「相変わらず容赦ないですねぇ。」

 ナオが笑うと、バレンは肩をすくめた。

「必要最低限だ。命は取っていない。」


 階段を下ると、そこには重厚な扉。

 中央に魔法陣が刻まれ、青く脈打っていた。


 ナオはしばらく見つめ、眉をひそめる。

「……これは“悪律封印”。洗脳のための封印ね。

 対象者の記憶を固定し、他人の心を“上書き”できるようにする仕組み。」


 エルネスが拳を握りしめる。

「そんな……母さんはずっと、その中で……!」


「任せて。」

 ナオは両手を扉に当て、静かに祈りを捧げた。

 やがて、扉に走る光が銀から白に変わり――パリン、と音を立てて消滅する。


 そこにいたのは――

 緑の髪を無造作に垂らし、目を閉じたまま鎖に繋がれた女性。

 セリーヌだった。彼女は銀髪ではなく、本来、綺麗な緑髪であった。


「母さんっ!」

 エルネスが駆け寄る。


 だが、バレンが咄嗟に彼の腕をつかんだ。

「待て! 何か……来る!」


 その瞬間、部屋中に“ざわり”と魔気が走った。

 セリーヌの体から、影のような黒煙が漏れ出す。

 そして――

 瞳が、真紅に染まった。


「……ヒカルの仲間、ね。」

 その声は、セリーヌのものではなかった。

 滑らかで艶やかだが、底冷えするような響き。


「セリーナ……!」

 ナオが叫ぶ。


 黒い霧の中、セリーヌの顔が微笑んだ。

「わたくしの“器”に、これ以上触れないで。せっかく馴染んできたのに。」


 バレンは剣を構える。

「セリーヌを返してもらう。」


「返す? ふふ……あなたたちは、まだ理解していないのね。」

 セリーナは鎖を引きちぎり、目を赤く染める。

 その瞬間、周囲の空気が歪み、床の影が生き物のように蠢いた。


 バレンが動こうとしたそのとき――

 ナオの手が、セリーヌへ向けてまっすぐ伸びた。


「――“天使旋律・浄解音セラフィム・メロディ!”」


 白い光と聖なる調べが流れ、黒煙を一瞬で焼く。

 セリーナの表情が苦痛に歪む。

「……その力……神の光を……!?」


 ナオの瞳は鋭く輝いていた。

「あなたの支配はここまで。

 この人の心は――もう、あなたのものじゃない!」


 轟音とともに、部屋中を白光が包み込む。

 黒い影が霧散し、鎖が砕け、セリーヌがその場に崩れ落ちた。


 バレンはすぐに駆け寄り、セリーヌを抱きとめる。

 その顔は苦しげながらも、確かに“人”の表情を取り戻していた。

「……エルネス……? どうして……」


 涙が止まらない息子を見て、セリーヌの唇が震えた。

「……帰ってきてくれたのね……ありがとう……。」


 バレンは剣を収め、静かに周囲を確認する。

「セリーナの本体は逃げたな。完全には払えなかった。」


 ナオは息を整えながらうなずく。

「ええ……でも、セリーヌさんの意識は戻った。洗脳も解けたわ。」


「……母さんを、連れて行こう。」

 エルネスが母を抱え、涙をぬぐった。


「あなたたちは…?」

エルナリアが聞く。


 バレンは短く頷く。

「説明は後だ。よし、撤退する。ヒカルたちの方も、もう動いているはず。

 セリーナを討つには、まだ“鍵”が足りない。今は守り抜くのが先決だ。」


 ナオが静かに微笑む。

「ええ。夜はまだ終わらないけれど……きっと、夜明けは来るわ。」


 その言葉を背に、四人は闇の王都を後にした。

 遠く、塔の最上部で、女の笑い声が響いた気がした。

 それは――“セリーナ”が、次の手を打つ音にも聞こえた。

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