第161話 グラス王国救出作戦
焚き火の炎が静かに揺れていた。夜風が木々の葉をわずかに鳴らし、緊張を含んだ沈黙がその場を包む。
クロエたちが合流したことで、ようやく全員が揃った。エルフの森の奥、ラルドの隠れ家での会議が始まった。
ヒカルが周囲を見渡しながら、口を開く。
「まず、状況を整理しよう。」
その声音には、戦場で幾度も決断を下してきた者の落ち着きがあった。
「まず、保安局の特別捜査官セリーナ――だが、正体は本当の“セリーヌ”。エルネスの母親だな。
グラス王国で異変が起きたとき、対処に動く人間……のはずだった。だが今は違う。
おそらく、“悪魔セリーナ”が介入し、洗脳したんだ。セリーヌを“セリーナ”として操り、グラス国民までも洗脳した。
結果、悪魔を討伐する俺たちが、逆に『国家の敵』とされてしまった。」
皆の表情が険しくなる。ヒカルの言葉は重く、冷たい現実を突きつけていた。
「そして、今回の悪魔はセリーナだけじゃない。……“ルシフェル”だ。」
その名を聞いた瞬間、クロエが息をのんだ。
リディアも眉をひそめる。
「二人もいるのか…」
「そうだ。過去、俺とナオがルミナスブレイブ時代に一度討伐したが、復活している。しかも今回は、エルフの森を襲い、エリナをさらった。」
焚き火の火花が弾ける。ヒカルは続けた。
「エリナをさらった目的はなんだ? 母親であるエルナリアを服従させるための人質か?
――それとも、“聖樹の血脈”が目的か。」
その名を出したとき、森の守り手ラルドがゆっくりと顔を上げた。
「……おそらくですが、思い当たることがあります。」
ラルドの声は、長い時を生きたエルフ特有の静けさを帯びていた。
「グラス王国には“聖樹”があります。その聖樹から生まれたのが、我々エルフだと言われています。
その中でも、最初に生まれた原初のエルフの末裔こそ――“エルナリア様”なのです。」
「原初の……エルフ?」クロエが聞き返す。
「はい。彼女の血には“聖樹の始祖”の力が流れている。
その血を濃く継ぐ者にしか行えない儀式があります。
それが――グラス王国祭の最終日に行われる、“聖樹への祈り”です。」
リディアが小さく息を呑む。
ラルドは続けた。
「エルナリア様が祈りを捧げることで、国中の緑と水源が蘇り、平和が保たれる。
しかし……伝承では、かつてこの“祈り”を悪魔に操られた者が行ったとき、国民の多くの命が奪われたとも言われています。」
沈黙の中、クロエがぽつりとつぶやいた。
「……じゃあさ、狙われるのはエルナリアさんなんじゃないの?」
ラルドはゆっくりとうなずいた。
「おそらく、彼女は反抗したのでしょう。そして、今は拘束されている。
だからこそ、悪魔たちはエリナ様を攫い、人質に――もしくは、代わりに祈りをさせようとしているのです。」
その言葉に、空気が一気に張り詰めた。
「でもさ、その儀式って祭りの日だけにするんじゃないの?」
リディアが疑問を口にする。
ラルドは首を振る。
「いいえ。祈り自体は、いつでも捧げることができます。
ただ、莫大な力を消耗するため、通常は一年に一度――祭りの日にしか行わないのです。」
クロエが拳を握った。
「じゃあ……エリナちゃんが危ないってことだね。」
ヒカルは全員を見渡し、静かに言った。
「まとめよう。目的は三つだ。
一つ――エルナリアとエリナ、母娘の救出。
二つ――セリーヌの救出と洗脳の解放。
三つ――悪魔セリーナとルシフェルの討伐だ。」
重々しい沈黙のあと、バレンが手を上げた。
「じゃあ、チームを分けよう。」
バレンは地面に枝で簡単な地図を描く。
「まず、エルナリアとエリナの救出。これは――クロエ、リディア、ラルドさん、ヒカル、シドの五人だ。
クロエとリディア、ラルドさんが中心で動く。だが、近くにはルシフェルが潜んでいる可能性がある。
その対応はヒカルとシドに任せたい。」
ヒカルがうなずく。
「了解。もし悪魔の気配を感じたら、俺が先行する。」
「次に、セリーヌの救出と洗脳解放。これは、私、ナオ、チャイ、そしてエルネスだ。
洗脳の解除はナオさんの“天使の力”で可能なはずだ。
セリーナが現れた場合は、私とナオさんで対応する。
チャイ、君はエルネスとセリーヌさんを連れて逃げるんだ。」
チャイが少し緊張しながらも、力強くうなずいた。
「了解。絶対に、守ります。」
ヒカルが立ち上がり、焚き火の炎を見つめながら言う。
「みんな、覚悟はできてるな。……今日はもう遅い。夜明けとともに出発しよう。
まだ、奴らは動かないはずだ。エリナを祈らせるにしても、体を回復させる時間が必要だからな。」
その言葉に、全員が静かにうなずいた。
戦いの舞台は、確かに整った。
そして、夜の森に吹く風が、次なる決戦の予兆のように、どこか冷たく肌を撫でていった。
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