表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された雑魚剣士、実は最強ゲーム覇者でした。~記憶を取り戻した俺はチート知識で世界をぶっ壊す~  作者: 中瀬
第二章 悪魔討伐編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

158/507

第155話 逃走

月明かりが森の葉を透かして、白銀の筋を地面に落としていた。

 風のない夜。音は、遠くのフクロウの鳴き声と、兵士の鎧がこすれる音だけだった。


 「……ここだ」

 バレンが小声でつぶやき、指先で蔦を払いのける。

 現れたのは、古びた石造りの小門。装飾もなく、荷運び用の通路らしい。


 だが――。


 「……見張りがいる」

 ヒカルが眉をひそめた。


 門の前には、槍を持った衛兵が二人。

 夜勤のためか、動きは鈍いものの、完全に寝ているわけではない。

 このまま突っ込めば、警鐘を鳴らされる。


 緊張が走る。だが、その空気を破ったのは、クロエの小さな囁きだった。


 「……まかせて!」


 彼女はそっと前へ出ると、人差し指を唇に当て、目を閉じた。

 指先が淡い黄金色に光り、空気が一瞬だけぴんと張りつめる。


 ヒカルが止めようとするより早く、クロエは小声で呟いた。


 「……少しだけ、眠っててね」


 すると、門の前の衛兵二人が突然ピクリと震え、

 お互いの顔をにらみ合ったかと思うと――


 「な、なにを見てやがる!」

 「お前こそ!」


 ゴッ!!


 鈍い音と共に、二人の衛兵はお互いに警棒で殴り合い、そのまま倒れた。

 地面にドサッと倒れる音が、妙に響いた。


 「……ちょ、ちょっと、乱暴だったかも……」

 クロエが小さく肩をすくめた。


 「結果オーライだな」

 シドが苦笑し、バレンが短く頷く。


 ヒカルは小門に手をかけ、ギィと静かに開け放った。

 月明かりの差す狭い通路を抜け、彼らは――グラス王国の城下町へと足を踏み入れた。


 ――潜入成功。


 しかし、城下の光景は思いのほか騒がしかった。

 夜にもかかわらず、広場のあちこちで人が集まり、屋台が並び、笑い声が響いている。

 街の雰囲気は華やかだが、その裏に妙な緊張感が漂っていた。


 「……なんだか、空気がピリピリしてるね」

 クロエが小声で言うと、ナオがうなずく。

 「保安局の取り締まりが厳しいのかも」


 そのときだった。


 「この野郎っ、金返せって言ってんだろうが!」

 路地の先から怒号が響いた。


 人だかりの中で、男二人が殴り合っている。

 どうやら借金のもつれらしい。

 「返すって言ってんだろうが!」「口だけだ!」

 ついには殴り合いが始まり、周囲が騒ぎ出した。


 その混乱の中、数人の保安局員が駆けつけてくる。

 「そこまでだ! 喧嘩はやめろ!」

 だが、借金をしていた方の男が逆に反撃し、局員の一人を突き飛ばした。


 「くっ……このっ……!」

 局員たちが押し返そうとするが、もみ合いの中で手間取っている。

 人々のざわめきが大きくなったその瞬間――


 「――ダメでしょう?」


 凛とした女性の声が響いた。

 その声に、群衆が一斉に道を開ける。


 月明かりの中に現れたのは、一人の女性。

 腰まである銀髪が夜風に揺れ、保安局の黒い制服がその体を包む。

 深い緑の瞳が、まっすぐに男を見据えていた。


 「借りたお金は、返さなきゃ」


 その言葉と同時に、男の体が動きを止める。

 まるで目に見えない糸で縛られたように硬直し、次の瞬間――

 彼女が軽く手を振ると、男はその場に崩れ落ちた。


 ざわめく群衆。


 「さすがセリーナ様だ!」

 「おお、やっぱり本物だ……!」

 人々の間から歓声が上がる。


 ――セリーナ。


 ヒカルたちは思わず互いに目を合わせた。


 (あれが……セリーナ?)

 ナオが息をのむ。

 デザート王国で見た“悪魔セリーナ”とは、まるで別人。

 こちらのセリーナは、人々から慕われる“正義の象徴”のように見えた。


 「どういうことだ……?」

 ヒカルが呟いたその時――


 セリーナがゆっくりと視線を巡らせ、少し離れた場所にいる彼らの方をまっすぐ見た。

 冷たい瞳が、確かにヒカルたちを捉えた。


 「――あそこに、指名手配犯がいる!」

 鋭い声が夜空に響いた。

 「ひっとらえろ!」


 「なっ……!? 見えてたのか!」

 ヒカルが息を呑む。


 あっという間に周囲の保安局員がこちらに向かって走り出した。


 「この人数で逃げるのは無理だ」

 ヒカルが短く言い、振り返る。

 「クロエ、リディア――お前たちはエリナのところに行け! あとで迎えに行く!」


 「で、でも――!」

 「いいから行け!」


 リディアは唇を噛み、クロエと目を合わせた。

 次の瞬間、二人は裏路地へと駆けだす。


 「風よ――!」

 リディアが詠唱し、足元に小さな竜巻が巻き起こる。

 クロエの体を包み込み、そのまま勢いで二人を屋根の上へと押し上げた。


 「わっ――すごいっ!」

 クロエが笑いながらも、すぐに振り返る。

 広場では、ヒカルたちが保安局員に囲まれ始めていた。


 「パパたち……どうか無事で……」

 クロエは両手を胸に当て、祈るように呟く。


 「旦那様……どうかご無事で……」

 リディアも同じように目を閉じ、風の中で願った。


 夜のグラス王国に、二つの影が屋根づたいに遠ざかっていく。

 下では、追跡の足音と怒号が、次第に激しさを増していた。

読んでくださり、ありがとうございます。

良ければブックマークと評価をお願いします。励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ