第154話 潜入
翌朝。
夜露をぬぐうように光が差し、森の奥の道が静かに金色に染まっていく。
ヒカルたちはすでに出発の準備を整え、グラス王国の外縁――大門前へと向かっていた。
「わぁ……きれい……」
クロエが息を呑む。
砂漠の乾いた世界からは想像もできないほど、そこは緑豊かな国境だった。
巨大な石門の向こうには、滝のように流れ落ちる蔦、鳥の群れ、そして遠くに見える白い城壁。
その光景はまるで“楽園”だった。
「これが……グラス王国か。噂以上ね」
ナオが感嘆の声をもらす。
だが――。
「門前に……多いな」
バレンが目を細めた。
王国の入り口には、整然と並ぶ多数の兵士。
門の上の見張り塔には、光を放つ水晶板を持った監視官が立っている。
通行人はひとりひとり、顔をその水晶板の前で照らされ、通過を許可されていた。
「……あの水晶」
シドが低くつぶやく。
「おそらくセリーナによって、ワシらが通れば確実に警報が鳴るよう細工されておるじゃろう」
「つまり、正面突破はナシってことね」
ナオが腕を組む。
リディアがいたずらっぽく笑った。
「ふふ、潜入っぽくなってきたじゃない。やっぱり私たち、指名手配されてる悪魔一家なんでしょ?」
「笑いごとじゃない」
静かにバレンが返す。
「でも、潜入ってどうやるの?」
クロエが首をかしげる。
「私に考えがあるわ」
ナオが少し前に出て、腰のポーチから魔石を取り出した。
「“幻影石”。対象の姿を変える小規模な幻術石よ。三つしかないけど――」
「七人いるんだけど?」
チャイがぴょこっと手を挙げる。
「そこが問題ね……」
ナオが眉を寄せると、クロエが「じゃあわたし、使わなくてもいいよ!」と元気に言った。
「なんでだ?」ヒカルが聞くと、
「だって、ちょっとくらい怪しい人がいないと逆に怪しいでしょ?」
「いや、それ怪しすぎるパターン」
リディアが即ツッコミを入れ、場が少し和む。
「……まて」
バレンが静かに手を上げた。
「ここから北側の森道を抜ければ、物資搬入用の小門がある。警備は緩いが、昼間は通れん」
「つまり、夜を待つってこと?」
ヒカルが確認する。
「そうだ。陽が沈んだら、私が先導する」
頼もしい声音だった。
その一言に、全員が無言で頷いた。
それからの時間、彼らは門前の岩陰で身を潜めて過ごした。
クロエとチャイは葉っぱをかぶって“完全にバレバレな隠れ方”をしており、
ナオが小声で「それ余計に目立つから……」と呟く。
リディアは風を操って音を遮断する小さな結界を張り、
ヒカルは剣を磨きながら、沈む太陽をじっと見つめていた。
――セリーナ。
グラス王国保安局の特別司令官。
悪魔セリーナとは別人なのか、それとも――。
あるいは、元の人間を殺して成り代わったのか。
どれも可能性の中で、確信はない。
ただ一つ分かるのは、そこに「真実」が待っているということ。
ヒカルは息を整え、静かに立ち上がった。
夜の帳が森を包み始める。
バレンが一歩前へ出て、低く言った。
「――日が落ちた。行くぞ」
夜風が吹き抜けた。
七人は影のように森を抜け、
光る城壁の裏側――グラス王国の小門へと向かっていった。
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