第152話 エルフの少女
「ど、どうするの!? これ、完全に指名手配じゃん!」
クロエが紙を持って青ざめた。
「“悪魔の一行”って書かれてる……これ、笑えないわね」
ナオが冷静に言いながらも、額を押さえる。
「なぁ……俺たち、悪魔じゃないよな?」
ヒカルが半ば冗談のように言うと、
「少なくとも私は“天使寄り”ですけど!厳密に言うと悪魔も混じってるけど…」
ナオが即座に返した。
「っていうか……」
クロエが指をぴっと伸ばした。
「あのエルフの子! あのまま王国に行ったら、完全に通報されちゃうよ!
私たち、入る前に“捕まる”パターンじゃん!」
「……たしかに。あの子が王国に着く前に止めなきゃ」
リディアも腕を組んでうなずく。
「悪いけど、ちょっとだけ“確保”ね。優しく、やさしく」
「……“捕まえる”って言葉をやわらかく言ってもダメな気がするぞ」
ヒカルがぼそりと突っ込む。
「ほら、リディア行くよ!」
クロエが言うなり、リディアの腕を引っ張って駆け出した。
「ちょ、ちょっと待ってクロエちゃん! ヒール脱げたー!」
砂煙を上げながら二人が森の方へ消えていく。
「……あの二人、ほんと勢いだけはあるな」
バレンが肩をすくめる。
「だが、確かに正しい判断だ。あの子が通報すれば、国全体が敵になる」
「んー……それも困るけど、あの二人が“別の意味で事件”を起こしそうで怖いのよね」
ナオが苦笑する。
森の中――。
「待ってー! エルフちゃん! ちょっと話を聞いてぇー!」
クロエが叫びながら走る。
「悪魔じゃないんだってばぁーー!!!」
エルフの少女は、振り返ることなく草の中をすり抜けるように逃げていく。
身軽さが尋常じゃない。さすが森の民だ。
「はやっ! あの子、足速すぎる!」
「……こうなったら、風よ!」
リディアが手をかざす。
風がぶわっと起こり、木々の葉を揺らした。
少女のマントがふわりと浮く。
「やった! これで止まるはず!」
しかし、次の瞬間――
風の向きが変わり、吹き返しがリディアとクロエを直撃した。
「きゃー! スカートがっ!!!」
「ちょ、ちょっとリディアちゃん!? 風向きミスってるよぉぉ!!」
ばさばさばさっ!
二人の悲鳴が森に響き渡る。
木の上の鳥たちが一斉に飛び立った。
その頃、森の手前。
シドは帽子を目深にかぶり、ぼそっと呟いた。
「まったく、あの子らは騒がしいのう……だが、あれが若さというものか」
森の奥、クロエとリディアはようやく少女を見つけた。
少女は木の陰に隠れ、小刻みに震えていた。
「だ、大丈夫だから! 襲わないから!」
クロエが両手を上げて言う。
「……ほ、本当?」
おそるおそる顔を出す少女。
リディアが微笑んだ。
「ええ、ねぇ……私たち、悪魔じゃなくて“勇者の仲間”なの」
「でも……紙に書いてあったもん……セリーナ様が言ってたの」
セリーナ――その名が、また静かに場を凍らせた。
クロエは唇を噛む。
「……セリーナ、やっぱりグラス王国にいるんだ」
リディアがそっとクロエの肩に手を置いた。
「うん、間違いないわね」
森の風が、ふたりの髪をなでた。
遠く、夕陽が木々の隙間から差し込み、黄金色に染めていた。
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