第150話 砂漠の盗賊
昼の灼熱がようやく和らぎ、赤い夕陽が砂丘を染めていた。
長い旅も、ようやく終わりが見えてきた。
「今日が最後の野営だな。明日の朝には、砂漠を抜けられる」
ヒカルが砂地に地図を広げながら呟いた。
「やっとだねぇ~……靴の中に砂が常駐してる気がするよ……」
リディアがため息をつくと、クロエが笑った。
「でも、ここを抜けたらグラス王国なんでしょ? どんな国なんだろうね」
「緑が多い国、らしい」
静かに答えたのはシドだった。
「豊かな水脈があって、森と湖に囲まれた土地だ。
交易も盛んで、音楽と芸術の都とも呼ばれている」
「おぉ……ロマンチックじゃん」リディアがにやりと笑う。
「砂の国から森の国へ、か……いい変化だ」
ヒカルが立ち上がり、野営地の場所を指差した。
「この丘の影に張ろう。風が防げる」
皆がそれぞれの役割で動き出す。
ナオとバレンがテントを設置し、チャイとクロエが火を囲う場所を整える。
クロエはその合間にも、杖代わりの木の枝を手の中に生み出し、素振りを繰り返していた。
この数日、彼女は自主練を欠かしたことがない。
「よっと……えいっ!」
枝が空を切り、ふっと金色の光を放つ。
自由に枝を出現させることも、今ではすっかり慣れたものだ。
ときどき、砂の中からサソリが顔を出すと――
「ヒカル、お願い!」
「……またか」
操られたヒカルの体が無意識に動き、剣でサソリを遠くへ吹っ飛ばす。
「ありがとう、ヒカル!」
「自分でやってくれ……」
「む、虫系はムリ!」
砂嵐が強く吹けば、クロエは両手を広げて金色のバリアを展開した。
ふわりと光が仲間たちを包み、風の勢いを消していく。
彼女の制御力は、確実に上がっていた。
一方で――リディアもまた進化していた。
彼女は手のひらから淡い風を巻き起こし、火打石を使わずに焚き火を灯す。
「ほら、便利でしょ?」
「風で火を起こすとか、もう理屈が崩壊してるけどね」
ナオが笑いながら鍋を置き、手際よくスープを作り始めた。
夕飯を食べ終えると、星空が広がる。
しばらく笑いながら語り合い、全員が寝袋に入ろうとした――そのとき。
シドが、ふっと目を開けた。
「……何か来る」
すぐにバレンが反応し、剣の柄に手をかける。
ヒカルも立ち上がり、焚き火を一瞬で消した。
砂の向こうから、低い笑い声が聞こえてくる。
「おやおや……家族旅行かな?
さあ、手荷物を置いていってもらおうか」
月明かりの下、十人ほどの男たちが現れた。
ぼろ布のようなマント、錆びた武器。砂漠の盗賊だ。
「出たな……盗賊団」
ヒカルが剣を抜き、仲間たちが陣形を整える。
盗賊の頭らしき男がにやりと笑い、ナイフを構えた。
――が、その瞬間。
「……あれ?」
男の手が、勝手に動いた。
「ん? お、おい、なんだこれ!? 手が勝手に――!?」
男は自分の服をナイフで切り始め、見る見るうちにボロボロに。
「ひっ!? あ、あれ!? やめろ、俺の手ぇぇぇ!!」
あっという間に、上半身があられもない姿に。
周囲の盗賊たちも次々に奇妙な動きを始め、
「うわ!? お、おい、俺のズボン!?」「ぎゃー!!」
「いやん♡」
女盗賊の悲鳴まで混じり、現場はカオスと化した。
犯人は――クロエだった。
彼女は人差し指を黄金に光らせ、涼しい顔で呟いた。
「ふふっ……“軽く”操っただけよ」
「軽くの範囲、広すぎない!?」
リディアが突っ込む。
「お、お前ら、変な奇術使いやがって! やっちまえ!!」
残りの盗賊たちが一斉に突進してくる。
「やれやれ……仕方ないか」
リディアが両手を組み、風を呼んだ。
「お、おかしら、あっちから竜巻がっ!」
「はあ!? そんなわけ――うわぁぁぁぁっ!!」
轟音とともに砂が舞い上がり、夜空に巨大な竜巻が立ち上がった。
リディアの両手が淡い赤と青に輝き、風と炎を一体化させて操っている。
砂漠の盗賊たちは次々に吹き飛ばされ、砂の中へと消えていった。
残ったのは、ぽかんと見上げる仲間たち。
「……クロエとリディア、もう立派に一人前だな」
ヒカルが呟くと、バレンが無表情のまま頷いた。
「いや、もはや俺たちより派手だ」
クロエが照れ笑いしながら指先を下ろす。
「ちょっとやりすぎちゃったかな……」
「次は服を脱がす系じゃなくて、せめて足止め系にしようね」
ナオが苦笑する。
夜風が砂をさらい、静けさが戻る。
砂漠最後の夜は、思わぬドタバタ劇のまま、更けていった。
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