第149話 野営
翌朝――。
まだ夜明け前の冷たい空気の中、ヒカルたちは砂漠の外れに立っていた。
デザート王国の城壁が遠くに霞む。
「じゃあ、行こうか」
ヒカルの声に、皆が頷いた。
空は群青から橙へと移り変わり、砂の海がゆっくりと光を帯びていく。
背後では王宮の塔が朝日を反射して、きらきらと輝いていた。
「さようならデザート王国。また戻ってこようね」
クロエが名残惜しそうに手を振る。
「戻るときはもう少し涼しい季節がいいな。暑すぎて髪がパサパサになるんだけど」
リディアが文句を言いながら、髪をまとめ直す。
「暑いのは気合で乗り切るんだよ!」とチャイ。
「その理論、子どもにしか通用しないからね……」とナオが笑う。
砂の上を、風がなでる。
歩けば靴の中に砂が入り、乾いた音がする。
クロエがヒカルの方を向く。
「ヒカル、次の町まではどのくらい?」
「二日だ。途中のオアシスで一泊する」
「また砂の中で寝るのかぁ……。背中にサソリ入ってきたらどうしよう」
「入らないようにすればいい」
「冷たい!?」
リディアがつっこむ。
「現実的なんだよ、ヒカルは」
笑いがこぼれ、砂漠の中に心地よいリズムが広がっていく。
―――
夕暮れが近づくころ、彼らは予定していたオアシスにたどり着いた。
小さな湖面に月光が反射し、周囲の椰子の葉が風に揺れる。
「ふぅ……。生き返る~!」
リディアが靴を脱ぎ、湖に足を突っ込む。
「おい、砂まみれのまま入るな。水が濁るだろ」
ヒカルが注意した。
「じゃあバレンにキレイに拭いてもらおうかなっ(にやり)」
「断る」
「冷たい!? もう少し反応してよ!?」
「……暑いから」
バレンは少し離れた岩に腰を下ろし、無言で水筒の中身をあおった。
その静けさが、かえって周囲を落ち着かせる。
ナオはクロエとチャイの髪をといてあげている。
「クロエ、力の制御は少し慣れてきた?」
「うん……でもね、たまに、変な夢を見るの」
「夢?」
「うん……すごく黒い空と、白い光。……たぶん、悪魔か天使の誰かの記憶」
ナオは優しく頭を撫でた。
「きっと、あなたが強くなってる証拠だよ。力が広がって、いろんなものを感じ始めてるの」
「そう……なのかな」
クロエは、オアシスの水面に映る自分の瞳を見つめた。
そこには、かすかに金色の光が瞬いていた。
――夜。
焚き火の明かりが砂の上で踊る。
星々は地平線までびっしりと並び、風の音だけが響いていた。
「こうやって星を見てると、地球にいた頃を思い出すな」
ヒカルがぽつりと小さな声で独り言を呟く。
もちろん、誰も聞いていない。前世のことは秘密だ。
チャイが言う。
「お星さまキレイだね!」
「どんな世界でも、上を見れば、ちゃんと光ってる」
ナオがそう言って、そっと焚き火に手をかざした。
沈黙が少しだけ流れたあと、
リディアが笑って破る。
「ねぇバレン、もし次の国で温泉見つけたら、一緒に入ってあげてもいいわよ?」
「……なぜ“あげる”なんだ」
「え、だって、バレンって恥ずかしがり屋でしょ?」
「違う。落ち着きがない者と入るのが嫌なだけだ」
「なっ!? 誰が落ち着きないって!?」
「今の、お前だ」
「ぬぬぬ……!」
リディアが顔を真っ赤にして怒るのを見て、皆が吹き出した。
その夜、笑い声はしばらく砂の海に響いた。
けれど、ヒカルの瞳は夜空を見つめたまま、どこか遠いところを見ていた。
“セリーナ”
次は、彼女を倒すことができるだろうか…
倒さず、分かり合える道はあるだろうか?いや、そんな甘い考えは通じないだろう…
焚き火がはぜる音がして、彼は小さく息を吐いた。
「明日には、砂の果てが見える」
「うん、グラス王国……」ナオが続ける。
「次の戦いが、また始まるんだね」
星が一つ、流れた。
風が彼らの髪を撫で、静かな夜がゆっくりと更けていった。
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