第148話 デザート王宮からの知らせ
それからの日々、クロエとリディアは休むことなく訓練を続けていた。
朝は魔力制御、昼は体術、夜は座学とイメージトレーニング。
クロエは黄金の光を安定して纏えるようになり、
「右手限定・木の枝出現スキル」をようやく意図的に再現できるようになっていた。
「枝を出せるようになったの、すごい進歩だよね!」
得意げなクロエである。
一方のリディアは、風の流れを読む感覚を掴みつつあった。
彼女の風術は、バレンの教えをもとに急速に進化していた。
「バレン、見てて! 今日は竜巻……の、つもり!」
「“つもり”か……」と呟く間もなく、リディアの周囲に砂煙が舞い上がる。
「おおっ、やった! これが私の“リディアストーム”よ!」
「……名前からして不穏だ」
「え、今なんて?」
「いや、何も」
(明らかに俺の方が危ない位置にいたんだがな……)とヒカルが心の中でつぶやく。
そして五日目の夕方。
長かった訓練を終え、宿舎で休もうとしたその時だった。
──コン、コン。
扉を叩く音がした。
「ヒカル殿、伝令です!」
「伝令?」
外に立っていたのは、王宮付きの使者だった。
その表情は、どこかただならぬ緊張を帯びている。
「王より、すぐにお戻りをとのこと。重要な報せが入ったそうです!」
ヒカルたちは顔を見合わせ、すぐに荷をまとめた。
―――
王宮に戻ると、王はすでに執務室で彼らを待っていた。
重厚な扉の奥、煌びやかな砂金細工の玉座の前。
いつもの温和な笑みは消え、王の顔には険しい影が落ちている。
「よく来てくれた、勇者ヒカルよ」
「何があったのですか?」
王は一枚の羊皮紙を差し出した。
「隣国――グラス王国からの急報だ。そちらで“セリーヌ”と名乗る女が目撃された」
「……!」
一瞬、空気が止まる。
ナオが息を呑んだ。
「セリーナ……じゃなくて、“セリーヌ”?」
「はい。名はわずかに違えど、容姿、雰囲気、そして……周囲の“魔の反応”が一致していると」
バレンの眉がわずかに動いた。
「つまり――悪魔たちは、標的とする国を変えたということか」
「たしかに我が国への襲撃は、しばらくない状態が続いておる。」
王はそう付け加えた。
ナオが静かに目を閉じる。
その背に、淡い光の羽が一瞬だけ揺らめいた。
「……確かに。ヴァルガを倒した今、この国から“悪魔の波”は消えてます」
「ならば、奴は本当にグラス王国へ移動したということか」
ヒカルが唸る。
王は頷き、言葉を続けた。
「我が国とグラス王国は、古くより平和条約を結んでいる。
彼の国が乱れれば、やがて我々にも火の粉が降りかかるだろう」
「つまり、俺たちが行くべき、ということですね」
王は立ち上がり、ヒカルの肩に手を置いた。
「うむ。お前たちの力が、あちらでも必要とされている。
――どうか頼む。グラス王国を、そして我らの平穏を守ってくれ」
ヒカルはしっかりと頷いた。
「承知しました。必ず、確かめてきます」
背後で、クロエとチャイが小さく拳を握る。
リディアは「また旅ね」と微笑み、バレンは静かに腕を組んだ。
ナオは天使の瞳で、遠くの空を見つめる。
「セリーナ……またあなたを追うことになるなんて」
夕日が王宮の窓から差し込み、
砂のように光がきらめく。
そして、ヒカルたちは――
次なる目的地、グラス王国へと向かう決意を固めた。
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