第147話 進歩
訓練が終わるころ、空は茜色から群青へと変わりはじめていた。
砂漠の端の小高い丘の上。
チームのみんなは、焚き火を囲んで腰を下ろしていた。
「ふぃ~……今日も疲れたぁ~!」
クロエがばたんと仰向けに倒れる。
「ヒカルさん、あのあと本当にごめんなさいね……あんなにきれいに当たるなんて思わなくて……」
「“きれいに”って言うな。俺は的か」
「いや~でも、あの音、すごかったね! “ボゴッ!”って!」
「チャイ、楽しそうに言うな。俺まだ痛いんだから」
ナオはくすっと笑い、手を差し出した。
「はい、湿布。魔法のやつ」
「助かる……」
ヒカルは素直に受け取り、肩に貼る。
「それにしても、クロエちゃんの枝すごかったよ~。ちゃんと木の香りしてたもん!」
「でしょ! あれ、ちゃんと“樫の木”をイメージしてたの!」
「……えらい。次は俺の頭じゃなくて敵を狙おうな」
「うぅ……わざとじゃないもん……」
クロエはぷくっと頬を膨らませ、ナオの膝に頭を乗せる。
ナオは苦笑しながら髪をなでた。
「頑張ってたものね。明日はもう少し精度が上がると思うよ」
「うん……ナオお姉ちゃんに褒められると、元気出る~」
焚き火がぱちぱちと弾ける。
その明かりの向こうで、リディアがバレンの隣に座っていた。
「ねぇバレン、今日の私、結構すごくなかった? 風、ちゃんと吹いたでしょ!」
「……ああ。驚いた。まさかあそこまで感じ取れるとは思わなかった」
「でしょでしょ? もうこれは弟子卒業じゃない?」
「いや、始まったばかりだ」
「えぇ~、もうちょっと褒めてくれてもいいじゃない!」
「……褒めるなら、あの“砂像”を作らなかった前提で、だな」
「うっ……そこは、芸術点で見てよ……」
ヒカルが遠くからぼそっと呟く。
「砂像って……しかもキスする仕草だったよな……」
ナオが口元を押さえて笑う。
「リディアちゃんらしいね」
「ふふ、芸術は情熱なのよ!」
「情熱が方向を誤ると砂が飛ぶ」とバレン。
「その通りでございます」とヒカルが同意する。
チャイがくすくす笑いながら、マシュマロを焚き火に突き刺す。
「ねぇねぇ、バレンさんもやる? マシュマロ焼き!」
「……いや、私は」
「ほら~固いこと言わないの~」
チャイが強引に串を手渡す。
しばらく見つめたあと、バレンは静かに火にかざした。
リディアがその様子を見て、目を輝かせる。
「きゃー! マシュマロを焼くバレン様……なんか絵になる!」
「……どのあたりがだ」
「全部!」
「……そうか」
ヒカルは肩をすくめた。
「すげぇな、バレンさん。静かにしててもモテるっていう才能あるわ」
「学びたいか?」
「いや、やっぱ遠慮しときます」
ナオとクロエが吹き出した。
やがて、焼き上がったマシュマロが配られた。
「ふわふわ~! 甘い~!」とチャイが頬を緩ませる。
「なんか……こういうの、久しぶりだね」ナオがぽつりと呟く。
「戦うばっかりじゃなくて、こうして笑ってられるの、いいな」
クロエがうんうんと頷く。
「うん、わたし、明日もがんばる!」
「おう、明日は俺を殴らない方向でな」ヒカルがすかさず返す。
「が、がんばる!」
そのやり取りに、リディアが笑いながら頬杖をつく。
「ねぇ、なんだかんだで良いチームだよね、私たち」
バレンは小さく頷いた。
「……確かに。悪くない空気だ」
「バレンがそう言うって、けっこう貴重よね!」
「そうかもしれんな」
空を見上げると、星々が砂の上で瞬いていた。
風が一筋、みんなの間を通り抜ける。
ヒカルがその風を感じながら、静かに言った。
「……明日はもっと強くなろう。誰も欠けないように」
「うん!」
クロエとナオ、チャイが同時に頷き、
リディアがバレンの腕をつつく。
「バレンもでしょ?」
「もちろんだ」
焚き火が、ぱち、と音を立てて火の粉を舞い上げる。
笑い声が、夜空に溶けていった。
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