第141話 ヴァルガ戦の決着
クロエの黄金の輝きに一瞬気を取られたヴァルガ。
その隙を、バレンが見逃すはずがなかった。
「……今だッ!」
咆哮とともに、蒼き龍気をまとった大剣が振り下ろされる。
(だ…旦那様!かっこいい…)リディアはポウッとなっていた。
「ぐぬぅ……!」
ヴァルガは慌てて黒い槍を突き上げ、軌道を逸らす。しかし、龍気の刃は槍をへし折り、衝撃波ごと彼の胸を貫いた。
「ぐあああああっ!」
黒煙がヴァルガの傷口から噴き出し、周囲の地面を焼き焦がす。
「俺は……七大悪魔の眷属……! こんな人間ごときに……負けるものかぁああ!」
ヴァルガは咆哮し、己の身を瘴気と同化させるように膨れ上がる。
(負けるのよ!いますぐね!…旦那様!かっこいい…)リディアはイラッとしていた。
「チッ……しぶといな」
バレンは片膝をつき、龍術の詠唱を短く刻む。
蒼炎の龍が彼の背後に顕現した。
「龍炎穿破――ッ!」
龍が咆哮し、ヴァルガを呑み込むように炎の奔流を吐き出す。
「ぐっ……があああああっ!」
全身を焼かれながらも、ヴァルガは最後の力で瘴気の腕を伸ばし、バレンを引きずり込もうとした。
だが、その瞬間――。
「……任せろ、決める!」
ヒカルが前へ飛び込み、白銀の剣を構える。
剣に宿る力が、稲光のように迸った。
「神裁――ッ!」
斬撃はヴァルガの胸をまっすぐに貫き、内部に潜んでいた瘴気を根こそぎ破壊した。
「が……あ……! ば、馬鹿な……二千年の怨念が……!」
断末魔の叫びと共に、ヴァルガの肉体は霧散し、黒い残滓が風に溶けるように消え去った。
(パパ!かっこいい…)クロエは晴れがましい気持ちで見ていた。
「……ふぅ……ようやく、沈んだか」
バレンは大剣を地に突き、荒い息を整える。額から汗が滴り落ちた。
「やっぱり……強かったな。あの瘴気、正直、骨が折れた」
彼は笑みを浮かべながらも、腕には無数の傷が走っていた。
ヒカルが剣を下ろし、バレンの隣に立つ。
「でも、俺たちで勝てましたね」
「……ああ。お前が最後を決めてくれたおかげだ」
バレンは若者らしい軽やかさで拳を差し出した。
ヒカルも頷き、その拳を打ち返す。
その背後では、クロエが結界を解き、リディアとチャイと共に涙を浮かべていた。
「……終わったんだよね?」
「うん、クロエ……あんたのおかげだよ!」
黄金の輝きは静かに消えていったが、彼女の瞳には確かな自信が宿っていた。
***
荒れ果てた地に静寂が戻る。
ヴァルガの残滓は風に溶け、まるで最初から存在しなかったかのように消え去った。
ヒカルたちは勝利の安堵に胸を撫で下ろしていた。
――そのとき。
遠くの岩陰に、ひとつの影が蠢いていた。
漆黒のドレスをまとい、長い髪をたゆたわせる女。
その瞳は、薄い笑みとともに、戦場の一部始終を眺めていた。
「ふふ……なるほど。バレン、そしてヒカル、ナオ……想像以上に骨のある駒たちね」
セリーナ。七大悪魔の第二位にして、数千年の恐怖を振りまいた悪魔の女。
彼女は、まるで観劇するかのように軽やかに手を叩いた。
「素晴らしいわ……ヴァルガがあそこまで追い詰められるなんて。二千年前では考えられないこと。やはり、時代は動いているのね」
セリーナは目を細め、クロエの方を見やる。
「……それにしても、あの少女。黄金の光……まさか…ね」
くすりと笑い、艶やかな指を唇に添えた。
「いいわ。あなたたちにはもっと踊ってもらう。その力がどこまで通用するのか、試してみたいもの」
その声は風にかき消され、誰も気づくことはなかった。
**+
戦いを終えた仲間たちは、互いの無事を確かめ合っていた。
だが、背後に潜む視線に気づく者は一人もいない。
――ただ、クロエだけがふと振り返った。
胸の奥に、得体の知れない寒気を感じたのだ。
「……誰か、見てた?」
呟きは小さく、誰にも届かなかった。
セリーナの姿は、すでに影に溶け、消えていた。
いつも読んでくださり、ありがとうございます。
良ければブックマークと評価をお願いします。励みになります。




