第131話 大人たちの帰還
「クロエ!リディア!チャイ!」
駆け込んだヒカルの声に、子どもたちが一斉に顔を上げた。
リディアは泣き腫らした目でバレンに飛びつき、クロエは肩で息をしながら必死に両手を握りしめている。チャイは竜の姿から戻っていたが、全身に打撲の跡を残していた。
「一体何があった!?」ナオが震える声で問いかける。
クロエが唇をかみ、震える声で答えた。
「……セリーナさんが……悪魔に、なったの……」
「なっ……」ヒカルの目が鋭く見開かれる。
「黒い影に覆われて、わたしたちを食べようとしたの……」クロエの言葉に、リディアも涙声で続けた。
「ほんとよ! 『好き嫌いしない』とか言って、私を……私を……!」
バレンがリディアの頭を撫でながら、冷静に頷いた。
「そうか。やはり、あの女……」
シドは目を閉じ、深くうなずいた。
「王が知らぬはずはない。あやつが王宮を行き来しておったのも、全ては悪魔のためだったか」
大人たちの間に、重い沈黙が落ちる。
セリーナが悪魔であること、その正体を隠しながら彼らを導いていたことは、もはや疑いようがなかった。
「それより……クロエ」
ナオが小さな声で呼びかける。
クロエは俯いたまま、ぎゅっと両手を握りしめていた。そこから、かすかな黄金の輝きがまだ漏れている。
「その手……どうしたの?」ヒカルがそっと問いかける。
クロエは顔を上げ、震える瞳で答えた。
「わたし……二人を守りたいって思ったら、急に光って……影が近づけなくなったの……」
リディアが頷き、力強く叫んだ。
「本当よ! クロエが光ったら、セリーナの影がぜんぜん効かなくなったの!」
「……ふむ」シドが長い髭を撫でる。
「黄金の光……あれはただの魔法ではない。抗魔の力……いや、それ以上かもしれんの」
「抗魔の力?」ナオが聞き返す。
「悪魔の干渉を根本から拒絶する、神聖の加護に近いものじゃ。しかも両の手か……珍しいのう」
バレンもじっとクロエを見つめる。
「ドラゴンでもない、人間でもない……だが、この力があれば、悪魔と渡り合えるかもしれない」
クロエは両手を胸に抱き、震えながら小さく呟いた。
「……パパ、ママ……助けてくれたのかな……」
その声は誰にも届かなかったが、黄金の輝きは確かに、彼女の小さな両手の中に生き続けていた。
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